撮影:加藤俊樹
撮影:加藤俊樹
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 写真家・加藤俊樹さんの作品展「失語症」が5月11日から大阪・心斎橋のギャラリーソラリスで開催される。加藤さんに聞いた。

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 展示される作品のほとんどは、「リハビリのため、病院に通うだけの生活の間に撮りためた写真です」と言う。

 加藤さんが脳出血で倒れたのは2012年7月。救急搬送され、気がついたら、自分の名前も言えず、ひらがなも読めず、「写真以外は何もできない人になっていた」。

 ひどい話だが、私はその言葉に感動した(昏睡状態から復活し、新境地を開いた写真家・中平卓馬みたいだと思った)。

「ある意味、それはすごいですね」と、ばか正直に言うと、「うーん。まあ、ほんと、それしかできなかったですから」。

 インタビューの前はうまく話が聞けるか、かなり心配だったが、言葉のつながりは若干たどたどしいものの、思っていたほどではまったくない。

 それでも、念のためにと、妻の瑞恵さんが会話をする際の注意点をテキパキと説明してくれる。

「(夫は)英語が苦手の人がネーティブスピーカーにわーっとしゃべられるとわからない、という感じです。速くしゃべられると追いつけない。長い文で話されると後半が理解できない。複雑な構文だとわからない。あと、聞かれたことに的確に答えることが苦手になっているので、ご承知おきください」

撮影:加藤俊樹
撮影:加藤俊樹

■ほんとうにラッキーだった

 これまで私は脳出血で倒れた人を何人も見てきたが、加藤さんは発症後、すみやかに治療が受けられた非常に幸運なケースだった。

 その日の夜、加藤さんは「会社の人たちとカラオケをやっていたんです。ちょっと頭が痛いなあと、思っていたら、どんどん痛くなってきた」。

 その場にいた上司はろれつがまわらない加藤さんの様子に気づき、「左右の目が同じように見えるか?」と、声をかけた。

「『右の目がちょっと見にくいです』と答えたら、すぐに『救急車だ』って。ほんとうにラッキーだったんです。その日は家内の帰りが遅くなることがわかっていたので、一人で帰って寝ていたら、どうなっていたかわからない」

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伝えるには写真しかなかった