ローソン 人事企画部 部長
岩田 泰典さん
木村まず女性の活躍推進について、各社、様々な取り組みをされていますが、そこでどのような発見や課題があったか教えてください。
岩田(ローソン)当社では2005年から新卒採用の男女比を5:5にしています。それでも現在の女性比率は20%を超えたところで、まだ課題の一つとなっています。女性社員向けのキャリア開発研修やリーダーシップ研修を行うほか、育休中も会社の最新情報をキャッチアップできる情報発信の仕組みや、育休中の社員同士で横のつながりをつくる機会も設けています。男性社員の育児休業等取得率は98%を超え、平均取得日数も約26日と比較的長い。一方で、周りの社員へのケアが課題になっている点をどう解消していくかが悩みの一つになっています。
長久保(日本生命)日本生命は戦後復興時に女性の雇用拡大に力を入れてきた歴史があり、現在約7万人の従業員のうち9割が女性で、そのうち5万人弱が営業職です。意思決定層のさらなる多様化を目指して今年、女性管理職比率・女性部長比率に加え、女性取締役比率の目標を立てました。女性活躍には男性と管理職の意識改革が必要だと考え、例えば男性育休取得率100%を初年度から11年継続しています。100%を維持することで「メリハリをつけた働き方」を受け入れる意識が広がり、育休以外の休暇も取りやすくなりました。人事の施策は効果が測りにくいところがありますが、確実に波及効果があると感じています。ただ、管理職が一人ひとりを見て多様性を生かすことには道半ばなので、「ダイバーシティ疲れ」にならないよう、管理職の支援が今後の課題です。
柳川(みずほFG)当社は女性が約半数ですが、やはり管理職比率に課題があり、課長相当職以上で約20%。2030年代早期までに女性管理職比率を30%にすることを目指しています。女性のキャリアに対して男女ともアンコンシャスバイアスがあるので、多様なキャリアがあることを知ってもらうことも重要です。社内で様々な社員の座談会を開催したり、キャリアの選択肢を増やすために「ジョブチャレンジ」「ジョブ公募」「社内兼業公募」「副業制度」といった、社内外における多様な挑戦の機会を提供したり、役員によるメンタリングを行ったりしています。メンタリングはメンター側、主に男性社員側の意識改革も重視しています。部署をまたいだ、業務上の利害関係が生じないクロス型のメンタリングにより、客観的なアドバイスができ、それぞれの悩みや課題に対してどのように対応すべきかを肌で感じてもらっています。
木村各社の取り組みが進んでいる一方で、課題もあるようですね。女性社員が管理職に挑戦していくよう意識を変えていくことも重要なテーマです。
日本生命 人材開発部 輝き推進室 室長
長久保 純子さん
岩田そうですね。社員意識調査では、働きがいなどでポジティブ回答率が約75%と高いのですが、細かく見ていくと、実は20〜30代の女性はキャリア形成に対してややマイナスな評価が見てとれます。様々な研修を通して意識は上がってきていますが、キャリアステップ最初のスーパーバイザー(加盟店と本部をつなぐ役割)の次のステップで、支店の管理職となることが大変だと感じているのだと思います。「支店管理職の業務も自分にもできる」というイメージを持ってもらえるように業務バランスの見直しも必要だと考えています。今年度は、社長自ら女性活躍推進の方針を明確に打ち出し、全国にある八つのエリアカンパニーのプレジデント(責任者)に女性2名を起用しました。
柳川トップ自らが責任を持って取り組むことは重要ですね。当社でも新プログラムを立ち上げまして、次期役員を目指す選抜メンバーと社長が直接対話する機会を設けています。これにより彼女たちも期待されている、という自覚を持つことができます。
長久保当社も女性自身の意識を改革すること、日常の職務で機会を与えて経験させること、挑戦した人を孤立させないためのサポートをすることの三つを重視しています。ただ一方で、女性職員の役職を上げることだけが女性活躍だとは思っていません。それぞれ自分らしく能力を発揮してもらうことも女性活躍。そのような両方の意識を持って取り組んでいます。
岩田そうですね。全員が管理職になることが理想のキャリアとは限りません。女性活躍推進はある程度浸透してきているので、次の段階としてそれぞれの強みをどのように生かしていくか、という向き合い方がマネジメントにさらに求められてくるので、その体制と運用を整える必要がありますね。
女性活躍に関連した各社の目標数値
日本生命
2030年までに、女性取締役30%以上、女性管理職比率30%以上。27年までに、女性部長比率10%程度
みずほFG
2030年代早期に、女性管理職の比率を30%以上。25年度までに、女性管理職比率…
部長相当職:14%
課長相当職以上:21%
ローソン
2030年度までに、女性社員比率・女性管理職比率ともに30%以上
より多様な人材を生かす会社に
みずほフィナンシャルグループ 人材・組織開発部
ダイバーシティ・インクルージョン 推進室長
柳川 佳代さん
木村女性だけでなく外国籍の方、障がい者も含めて多様な人材の活用も求められていますが、どのような取り組みを行っていますか。
岩田ローソンは来年創業50周年を迎えますが、創業時からお客様の層が変わってきています。当初は男性のお客様が多かったのですが、今は女性はもちろん、外国人観光客の方も含めて様々な方にローソンを選んでいただいている。お客様の多様化に対応していくため、多様な従業員の採用、育成の必要があります。その一環として、近年、新卒の10〜15%を外国人の留学生から採用しています。障がい者雇用においては、2013年に特例子会社を設立。特性を持たれた方の強みを最大限生かし「ローソンで働いてよかった」と思っていただけるように努めています。たとえば店内のキッチンでお弁当やおにぎりをマニュアルに正確に迅速に作ることが得意な方もいるので、その代わりに接客やレジは他のメンバーが担うなど、役割分担をしながら活躍の機会を生み出すようにしています。LGBTQにおいては、同性パートナーの方にも結婚お祝い金を支給し、社宅で同居できるようにしています。
長久保当社では、介護や育児、障がいなど様々な事情を抱えて働く人やLGBTQの人たちへの理解促進のために動画等を作成・発信してきました。今年から動画プラットフォーム「DE&Iチャンネル」にまとめ、ここに載せた視点は全てDE&Iにつながっていると、感覚的に伝わるよう工夫しています。
柳川LGBTQについては、社員の意識啓発はもちろん社外に対しても理解促進につながる情報発信が重要だと考え、他の金融機関とも手を取り合って合同プロジェクトを実施。理解促進のための動画制作や、東京レインボープライドのパレードへの参加など「一見堅そうな金融機関も推進しているのだから、ちょっと考えてみようかな」と思っていただけるよう発信しています。
真似でもいい、一緒に推進
木村ダイバーシティを進めるなかで、社会貢献や社員の働きやすさ向上だけでなく、事業における効果や成長を実感していることはありますか。
長久保新規事業の創出コンテストで優秀賞をとり、事業化した一時保育マッチングサービス「ちょこいく」は、育児中の職員自身の経験から生まれました。挑戦者の多様化が、従来の事業を超えて、今必要とされているサービスの誕生につながっています。
柳川当社では2017年に邦銀で初めて同性パートナー対応のペアローンの提供を開始しました。先日もお客様から「みずほ銀行でローンが組めてよかった」と感想をいただきました。これは社員の提案が商品化につながった一例です。社内のLGBTQの取り組みだけではなく、お客様に対しても何か出来ることがあるのではないかと考え、LGBTQの当事者にもヒアリングを重ねて実現しました。また、社内ビジネスコンテストの第1号事業化案件として、親子でお金の役割や経済を学べるアプリの開発・提供を行う「株式会社みずほポシェット」が誕生しました。これも女性社員が発案し、代表取締役に就任しています。
岩田2023年の取り組みで僕個人も感銘を受けた例に聴覚障がい者に向けた「指差しシート」があります。レジに貼って「レジ袋いりません」「温めてください」など指差しでやり取りできるシートです。これは、聴覚に障がいを持つ社員の発案をもとに形にしました。聴覚障がいは見た目では判断しにくく、店舗従業員も対応しやすいとSNSでも拡散され、他社の小売業にも広がっていきました。DE&Iは個社独自で取り組むのではなく他社も一緒に推進し、ローソンらしさは商品開発など他のところで発揮していく。そのほうが事業も持続的に続いていけると思いましたね。
「空の見える社会」の実現に向け、3社とも
「これを機会に一緒に取り組んでいきましょう」と気持ちを一つに
柳川そうですね。会社の枠組みを超えて、次世代を担う子どもたちが自分らしく生きていくことができるように、我々は現在の取り組みをさらに推進していかなければなりません。
長久保企業は幅広い年代の人が集っている組織。それぞれに家族や地域とのつながりがあります。日本生命の職員に対して地道にDE&Iに取り組むことが、ひいては、その先にある社外の人、地域社会に貢献することにもつながっている。男性育休も、男性職員のパートナーは社外の人だったりします。当社職員が育児参画することで社外にもいい波及効果が生まれたらうれしいです。
柳川正解は一つではなくいくつもあることを発信していくことが大切。誰もが自分らしく活躍できる、どこにいても幸せになれると思える社会を目指していきたいと思っています。企業がそうした発信をしていくことで、周りの企業にも伝わり、世の中も変わり、若い世代にも波及していくのではないでしょうか。
岩田当社のグループ理念は「私たちは〝みんなと暮らすマチ〟を幸せにします」。社員が自分の幸せの形を自分で描き、その幸せに向かって行動していけるようサポートしつつ、そういった自ら考え行動できる人材の集団になることで、会社としてお客様やマチに幸せを提供できるようにしていきたい。今回、日本生命さん、みずほさんのお話を伺って、動画配信や金融機関合同の取り組みなど、「ぜひ当社も参加させてください」と思うところがたくさんありました。コンビニも金融も保険も社会のインフラ。互いにつながることで、社会へといい波及効果を生み出し、空の見える社会につながっていくと思いました。
木村おっしゃる通りですね。本日はありがとうございました。