そしてそれ以上に気になるのがチームの強みを生かし切れていないという点だ。今年もここまでチーム防御率(2.82)、失点(149)はいずれも阪神に次ぐリーグ2位の数字をマークしており、投手陣に関しては高い水準をキープしているのだ。昨年セットアッパーとして活躍したキューバ出身のロドリゲスがシーズン開幕直前に米国に亡命し、長年エースとして活躍してきた大野雄大も故障で離脱している中でこの数字は立派である。先発は小笠原慎之介柳裕也高橋宏斗の3人が揃い、リリーフも抑えのマルティネスを筆頭に力のある投手が揃っている。それであれば安易に長打力を強化しようとするのではなく、得点自体は少なくても、ゲーム序盤にリードを奪って、投手力で逃げ切るような戦い方を徹底した方が有効ではないだろうか。

 そんな中で気になるのが守備力の軽視だ。落合監督時代は二遊間の“アラ・イバ”コンビを筆頭に守備力の高い選手が揃っており、失点を最小限に防いでいた。一方で現在のレギュラーで高い守備力を誇るのは外野の大島洋平と岡林勇希くらいで、大島もスローイングには不安を抱えている。守備を重要視するのであれば、リーグでもトップクラスの守備力を誇るショートである京田陽太を簡単に放出しようという考えにはならなかったはずだ。

 楽天のようにチームの歴史が浅く、唯一の日本一が田中将大の歴史的な快投によるものが大きいとなれば再現することは確かに難しいかもしれないが、中日は既に20年以上現在の本拠地で戦ってきており、守り勝って黄金時代を築いたという経験がありながらもそれを生かそうとしていないように見える。

 しかも投手陣は現在も強力となれば、もったいないと言わざるを得ない。2020年のオフには契約更改の席で福谷浩司がチームの将来のビジョンについて球団幹部に問い、即答できなかったことでも話題となったが、それから2年以上経ってもどうやって戦っていくかというビジョンがない状態が続いているように感じられる。果たして強かった中日が戻ってくる日は来るのだろうか。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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