次のターニングポイントは1992年にあった。初めてデンマーク国外からの注文が入った。ノルウェーからだった。92年にノルウェーの病院に凍結精子を送り始めると、すぐに現場で使用され、立て続けに子供が生まれたのです。それが契機となって他の国の病院にも知られるようになりました」

 スコウはビジネススクールで学んだ顧客開拓の方法や経営戦略と、精子凍結技術の医学的知識を組み合わせて、液体窒素を使う凍結精子の海外発送も成功させた。「凍結される生物学的物質はマイナス140度以下で保存されなければなりません。その温度がすべての生物学的活動が止まる温度です。液体窒素は(沸点が)マイナス196度なので保存と輸送に向いています。空輸システムも非常に重要ですが、いまや世界のいかなる場所へも数日以内に輸送できるようになりました。追跡システムも完備しているので需要がますます増えました」

 生殖補助医療に関する法律は国によって異なるため、凍結精子を送る相手国の法律に合わせなければならない。特に厳格な国はイスラム教圏の国である。これらの国で不妊治療など生殖補助医療の行為はハラーム(禁止)とされるが、医師は命がけで法律を犯してまで患者を助けているという。

「人工中絶と似ています。それが禁止されたところでは人は法律を犯してまで中絶手術を行うし、子供がほしい人は、どんな手段を使っても子供を持とうとするものです。イタリアでは2004年に生殖補助医療法が初めて制定されましたが、カトリック派が中心になって作られた法案が採用され最も厳しいものとなりました。配偶子提供も禁止、凍結保存も禁止となり基本的に生殖補助医療を受けることができなくなりました。しかし、2014年にこの法律は違憲であるという判決が出て合法になりました。イタリアはEU加盟国なので、自由に凍結精子を送ることができる。凍結精子を自宅に送ってそこで人工授精ができます」

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