今や多くの人にとって当たり前のツールとなっている、ZoomやTwitter。非常に便利だが、使い方を誤れば、脳寿命や記憶にも影響を及ぼすおそれがある。

【図】最も忘れにくい記憶とは? 記憶の種類一覧はこちら

 千葉大学脳神経外科学教授の岩立康男氏は、著書『忘れる脳力』(朝日新書)のなかで、「テクノロジーとのバランスの良い向き合い方」のほか、「必要な記憶」を維持し、「忘れたい記憶」を忘れるコツを伝授している。SNSをはじめとするツールが、脳や記憶にもたらす影響とは? 『忘れる脳力』の一部を抜粋して解説する。

 脳には大きく分けて、「集中系」と「分散系」という2つのシステムがある。テクノロジーの使用によって脳の2つのシステムの使い方に偏りが生じれば、脳が十分な休息をとることができず、疲弊してしまう。

 集中系というのは「目的を持って何かの仕事に集中している」ときに活性化する部分で、他方、主に「ぼーっとしているとき」に活性化しているのが分散系だ。

 集中系と分散系は、片方の活性時には他方を抑制し、休ませている。両者を交互にバランス良く活性化させていけば、それぞれに適度な休息を与えることにつながり、脳の健康寿命は延びていく。

 逆に、片方への偏りが長期にわたれば、脳の細胞死を促進し、忘れてはいけない記憶を忘れてしまうことにつながる。最終的には脳の寿命を縮めることになるだろう。

 テクノロジーの使用による悪影響を避けるためには、テクノロジーの脳に対する影響を理解し、それに溺れることなく、バランスよく使いこなしていかなくてはならない。我々に身近なツールが脳に及ぼす影響を、いくつかご紹介しよう。

 スマホやSNSに関しては、さまざまな意見がある。一般論として、社会生活において「多くの人と常につながっている」という感覚は、分散系を強く活性化させることが知られている。もちろん、これ自体は決して悪いことではないが、恒常化すれば偏りが生じてしまう。

 程度によっては分散系の過剰な活性化をきたし、うつ傾向を強めてしまうおそれがある。これに対処するにはスマホを手元に置かない時間を作ることが一番だが、これだけ身近なツールとなると、そうもいかない人も多いはずだ。

 それではどうすればいいか。SNSと向き合うことが多い人は、運動や読書など、意識的に「集中系を活性化する行動」を取るようにするべきだ(行動例は『忘れる脳力』で詳述)。

 一方、コロナ禍を機にスマホやパソコンを介したリモートでの対話が普及したが、脳にどのような影響をもたらすのだろうか?

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Zoomが脳にもたらす影響