齋藤医師が勧めるのは、朝5時前後に5合目を出発する日帰りコース。上りにかかるのは4~7時間なので、午前のうちに山頂に着く。お昼ご飯を食べたり写真を撮ったりして1時間くらい山頂で過ごし、2~4時間かけて下山すれば、日没までに余裕で5合目に戻ってこられる。

 どうしても頂上でご来光を見たいなら、山小屋に1泊すること。「ただし標高が高い場所で泊まるのは、体にはかなり負担になります」と齋藤医師は指摘する。

 富士山の頂上は酸素が薄いため、起きた状態でも動脈血酸素飽和度(=血液中の酸素量の目安)は80%前後まで下がる人が多い。睡眠時はさらに呼吸の回数が減り、酸素の取り込み能力が下がる。登っているときには高山病の症状が出なくても、山小屋に泊まった翌朝、突然症状が出たり悪化したりするケースも少なくない。

「7合目か8合目にある山小屋に宿泊し、翌朝、日の出時刻に間に合うように登るといいでしょう。特にいびきをかきやすい人は睡眠時の酸素の取り込み能力が低いので、標高の高い場所で宿泊するのは避けたほうが無難です」

■山頂は真冬並みの寒さになることも

 高山の富士山では、「低体温症」にも注意が必要だ。標高が100m上がるごとに気温は0.6度下がるため、5合目と山頂の温度差は約8度。山頂は夏でも時間帯や天候によっては5度以下の真冬並みの寒さになることもある。同じ気温でも雨や風が加われば、体感温度はさらに下がる。

「6合目以上はほとんど樹木がなくなり、雨風をよけられるのは山小屋などごく限られた場所しかありません。一番上に着られる、雨や風を防げるウェアは必ず持っていきましょう」

 逆に直射日光がまともに当たる好天の日もきつい。体温の上昇を招き、体力を奪われたり、熱中症にかかる危険がある。帽子などでできるだけ日差しを遮り、こまめに休憩や水分をとるようにする。なお、薄くて軽い素材の服や下着の替えがあると、雨や汗で濡れたときに着替えることができる。

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ふだんから体力をつけて