今年6月にキャリアデザインセンターが行った調査によると、不妊治療のための休暇制度があれば「使いたい」と答えた人は約7割なのに対し、職場に不妊休暇制度が「ない」と答えた人が67.4%を占めた。仕事をしながらの不妊治療で最も辛いことは、「急な通院で職場に迷惑をかけてしまう」(80.6%)。次いで「投薬や通院の負担で体調・体力的に辛い」(75.8%)、「働いても治療費に消えていくので金銭的に辛い」(66.1%)という声が聞かれた。

 自身も不妊治療体験者で、不妊体験者を支援するNPO法人Fineを立ち上げ活動している松本亜樹子さんは言う。

「これだけ不妊治療が広がっているのに、職場で不妊治療が理解されずに悩んでいる人は本当に多い。職場の理解が得られないために、治療について誰にも言えず、仕事との両立ができない事態に追い込まれる人が少なくありません」

 “不妊治療をしていることを職場に知られたくない”という声も少なからず聞かれる。前出のAさんも、職場で上司からの心ない言葉に傷つき、「言うんじゃなかった」と後悔した一人だ。「治療している」と公表したことで、「休むたびに職場の目が気になった」というBさんのような声もある。松本さんは言う。

「職場で治療していることを告げた場合、結果を報告せざるを得ないことが大きなストレスになることも多い。治療がうまくいったらまだ良いのですが、ダメだった時にも報告する流れになってしまう。上司への報告が、妊娠できない辛さを増長させてしまうことにもつながる」

 家族や友人など、近しい存在からの理解が得られない辛さも聞かれる。

 岡山県在住のDさん(39)。3年にわたって不妊治療を続け、心身ともに疲弊していた頃、それまで治療について話していなかった母に初めて、治療中であることを話した。「一刻も早く孫を」と望んでいるとばかり思っていた母から出たのは、意外な言葉だった。

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辛い治療に向き合ってきた日々を否定されたよう