その内容は、現在の医療の常識とはかけ離れた主張で、しかも断定的な論調で書かれている。近藤医師はこう続ける。

「根拠というのは、聞かれたときに示せばいい、という考え方もある。僕のほかの本には専門的な根拠が書いてあるわけだから、読者が、僕の主張の根拠を知りたければ、それらの本を読めばいい」

 記者が近藤医師に対して「他人の論文や臨床試験の問題点を指摘するばかりでなく、自分が提唱したいことを科学的根拠をもって証明していけばいいのではないか」と問いかけた。近藤医師はこう答えた。

「理論は、何かを築き上げる理論だけではなく、従来の考え方やデータなどが間違っていると指摘することに使える場合がある。僕は、抗がん剤や手術といった治療に間違いがあると指摘しているわけで、新しいデータを提示してはいないんだよ。『抗がん剤をやったほうがいい』という介入行為は医師一人の意見でやってはいけない。しかし、一人の意見は『抗がん剤をやめさせる』根拠にはなるわけだ。臨床試験の方法や結果の解析が妥当か? 専門家がインチキしていないか? その点では、一人の意見は有用なんだよ」

 近藤医師本人が言うように、主張している内容は、新しいデータの提唱ではなく、現代医療に対する問題点の指摘だ。

「今は、がんを見つけ次第なんでも治療してしまう時代になっている。どういうがんに対しても、手術や抗がん剤治療に意味があると言っている。では、本当にそうなのか、だれもわからなくなっている。僕はがんを自然に任せたらどうなるかを広く伝えて、人々の意識を改革したいと思っている」(近藤医師)

※週刊朝日2013年6月21日号、28日号から抜粋して再構成