まわしと同じく、化粧まわしと締め込みもスポンサーが贈ってくれるんだけど、俺が十両に上がったときは、地元・福井の有志で作ってくれたんだ。ただ、作るのは部屋が作って、その代金が振り込まれると、俺に化粧まわしが届くという仕組みになっているんだけど、その振り込みがなかなかされない(苦笑)。「これは俺の退職金で払わなきゃいけないか……」と覚悟していたら、よやく場所が終わる4日前に、女将さんから「振り込みがあったよ」と聞かされて、ホッとしたよ。実は、そういう地元とのつながりが負担で廃業した力士もいるんだ。

 どういうことかというと、田舎から出てきた力士が勝つと、地元の人がその家に行って「よかったね、おめでとう」とお祝いをするだろう。そうしたら、その家では来た人をもてなさないといけない。子どもの活躍を祝ってくれる地元の人をむげにするわけにはいかないからね。祝ってくれる人が来たら料理や酒を出さないといけないし、その出費が馬鹿にならないわけだ。家が貧乏で相撲に行ったのに、勝つたびに実家が傾くんじゃあたまったもんじゃないよね。

 相撲は地域密着だけど、密着しすぎて負担になる場合もあるってことだ。勝てば「すごいね、偉いね」と言われ、負ければ「あの家の馬鹿息子が」と言われ、それが嫌になって、辞めていった力士もいると聞くよ。今は相撲もビジネスライクになったけど、昔はぐっと身近だったし、相撲取りも地元に行くと市役所や母校を訪問したり、取材されたり、やっぱり“俺が街のヒーロー”だってなるし、やはり地元との結びつきはまだまだ強いよね。

 化粧まわしはほとんどの場合、親方が力士の名前にちなんだものを作るけど、立浪部屋にいた玄武という力士は漫画家の赤塚不二夫さんが応援していて、十両に上がったときに“バカボンのパパ”の化粧まわしをプレゼントされたんだ。それで人気が出て、地方巡業でも子どもたちを中心に大好評で「あの野郎、得してるなぁ!」と思ったもんだよ(笑)。十両の土俵入りなんて、普段ならお客さんはみんな「はい、はい」って感じで見ているけど、玄武が出てくると「おぉー!」って歓声が上がってね、横綱、大関よりも人気があったよ。

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