『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)より
『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)より

 大切なのは、どれもたくさんある要因の一つにすぎないということです。

 また、周囲の大人が、精神疾患にかかった子どもに対して、「心が弱いから精神疾患になったんだ」と責めたり、「精神を鍛えろ」「薬なんか飲むな」などと発破をかけていたりする場合があります。ストレスに対する弱さという一つの要因はありますが、それは心(気持ち)が弱いわけではありません。また病気なので、根性で治せるものでもありません。精神疾患について学ぶ際には、心の働きを現代科学(サイエンス)の成果で理解するという姿勢も身につけたいものです。

 精神疾患の中には認知症のように高齢になるほど発症しやすい病気もありますが、多くは10代、20代に発症のピークがあります。なぜこの年代に多いのでしょうか?

「思春期」には体が単純に大きくなるだけでなく、性ホルモンが分泌され、大人の体へと変化していきます。急激な変化を遂げるこの時期は体調が不安定になりがちで、精神疾患に限らずさまざまな病気にかかりやすいもの。

 また思春期は、社会の影響を受けながら一人の大人として自分を確立していく時期でもあります。自立に向けてこれまで自分を守ってくれていた家族と距離を置きたくなる一方で、友だちとの関係を重視し、異性を意識するようになるなど、周囲とのかかわり方も急速に変わっていきます。脳も成長しますが、そのスピードは比較的ゆっくりで、22~23歳くらいに完成します。つまり、体や自分を取り巻く環境が変化していくスピードに脳の発育が追いついていけず、「ズレ」が生じてしまうことになります。このズレが大きなストレスとなり、心や体のバランスにも影響を与えてしまうことも少なくありません。こうした思春期

 特有の事情も、精神疾患を発症しやすくさせていると言えるでしょう。

『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)より抜粋

水野雅文(みずのまさふみ)
東京都立松沢病院院長 1961年東京都生まれ。精神科医、博士(医学)。慶應義塾大学医学部卒業、同大学院博士課程修了。イタリア政府国費留学生としてイタリア国立パドヴァ大学留学、同大学心理学科客員教授、慶應義塾大学医学部精神神経科専任講師、助教授を経て、2006年から21年3月まで、東邦大学医学部精神神経医学講座主任教授。21年4月から現職。著書に『心の病、初めが肝心』(朝日新聞出版)、『ササッとわかる「統合失調症」(講談社)ほか。