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「ハンサム」

 だ。……。こんな時にそんな聞きまちがいかい。ところが、

「ハンサム」

 と、また聞こえたので、ちょっとまった、と、なった。

 あのさ、

「ハンサムって何?」

 疲れで、左目だけ真っ赤に充血した次女が言った。あ~、

「主治医の先生がすっっごいハンサムなんだよ」

 車椅子、と言った先生が、ハンサムとしかいいようがないハンサムだ、と。4時間の手術の後、麻酔から目を覚ました母に、

「僕が誰だかわかりますか?」

 と、またドラマのようなセリフを先生が言ってのぞきこんだそうだ。その時母が、わかりますとうなずきながら、

「ハ、ハンサム……」

 と、言ったくらいだ、と。

イラスト:伊藤理佐(本書より)
イラスト:伊藤理佐(本書より)

 そ、そんなに? 今時、ずっとマスクしてるよね?

「マスクじゃかくせないくらいハンサム!」

 なのだそーだ。レンジが使えなくて次女に怒られている父にもためしに聞く。

「先生が~~?」(疑問形)
「あー、ハンサム!」

 男も認めるハンサムか。

 こんな時にもみんなが避けて通れないハンサムって、どんだけハンサムなんだ。東京で妄想、すごいハンサムに成長している。母は今、リハビリ中。歩いている。割と奇跡っぽい。

 まさか、おかあさん、ハンサムのおかげじゃあるまいな。