481社の創業にたずさわったという渋沢栄一(渋沢栄一記念館提供)
481社の創業にたずさわったという渋沢栄一(渋沢栄一記念館提供)
渋沢健さん(提供)
渋沢健さん(提供)

 NHK大河ドラマ『青天を衝け』の主人公で「日本資本主義の父」と称される渋沢栄一。渋沢家五代目の渋沢健氏が衝撃を受けたご先祖様の言葉、代々伝わる家訓を綴ります。

 色々とあった東京オリンピックでした。開催が1年延期され、賛否両論がある中、関係者の心労も多かったと察します。多大なご尽力に心より敬意を示します。冷静に考えると、壮大なロジの組み合わせです。

 現状を踏まえると、東京オリンピック開催は見送った方が無難と思っていました。新型コロナウイルスのデルタ変異株が世界で広まっている状況では、オリンピック開催中に東京で感染者が更に増えるのは不可避ということは誰でもわかることでした。ただ、重傷者や死者数を抑えることができるという思惑での決断だったと察します。

 良くも悪くも今回の東京はコロナ・オリンピックという歴史の名を残すことになるでしょう。しかし、オリンピックであることは間違いなく、コンディションのピークを迎えている世界の選手にとって人生最大の勝負のタイミングで競技する場を提供できたことは良かったです。開催が決定されたのであれば、世界からやってきた選手を温かく歓迎し、健闘を祈り、良い思いを抱いて帰国することを願う。そうした気持ちが我々日本人として大事でありましょう。

 もちろん今回のオリンピックは、全てが美しいスポーツマンシップのために開催された訳ではありません。様々な経済的な、政治的な「大人の事情」があったからこそ、開催に至ったことに間違いありません。

 渋沢栄一の時代ではオリンピックはアマチュアのスポーツ世界大会であり、現在のように商業化された大イベントではありませんでした。また、栄一がオリンピック大会に対してどのような意思を表明していたのかわかりません。

 ただ、生声が残っている「道徳経済合一説」という演説で栄一は、このように述べています。「目的が利潤の追求にあるとしても、その根底には道徳が必要であり、国ないしは人類全体の繁栄に対して責任を持たなければならない。」

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渋沢健

渋沢健

渋沢健 シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役、コモンズ投信株式会社取締役会長。経済同友会幹事、UNDP SDG Impact 企画運営委員会委員、等。渋沢栄一の玄孫。幼少期から大学卒業まで米国育ち、40歳に独立したときに栄一の思想と出会う。

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渋沢栄一のオリンピックの考えは?