喉の老化はオーラルフレイルの一種です。オーラルフレイルとは加齢による衰えの一つで、食物をかんだりのみ込んだりする機能が低下したり、滑舌が悪くなったりするなど「口」に関連する機能が低下しつつある状態のことをいいます。

 オーラルフレイルはからだのフレイルよりも早くその兆候があらわれるとされています。実際、誤嚥は働き盛りの50代頃から少しずつ増えてきます。

 私自身、若い頃に比べるとむせる回数は増えたように思います(そのたびに、ドキッとします)。

 誤嚥をしても痰や咳という手段で吐き出せるうちはいいのです。危険なのは誤嚥をする回数が増え、同時に感覚機能が衰え、「嚥下反射」が低下していくこと。そうなるとの食物が出せず、肺に落ちてしまいます。

 ここで問題になるのが食べ物や飲み物と一緒に入ってくる口の中の細菌です。なかでもやっかいなのが歯周病菌で、抵抗力が落ちているときに肺が歯周病菌に感染すると、誤嚥性肺炎を引き起こしやすくなることがわかっています。

 東日本大震災では、避難所にいる人の多くが誤嚥性肺炎を発症し、亡くなったことが知られていますが、この背景には水が不足し、歯みがきが十分にできなかったことがあります(歯科医師会の働きかけで、震災直後に被災地に大量の歯ブラシを送ったのに、誤嚥性肺炎が増えるのはおかしい、と疑問を持った歯科医師のグループが調査し、このことがわかりました)。さらに避難所でのストレスで身体の抵抗力が落ちていたことが拍車をかけました。

 話を元に戻すと――。痰や咳払いをしょっちゅうする人、そうでなくても、「最近、以前に比べてむせやすくなったなぁ」と感じる人は今すぐにオーラルフレイル対策を始めることをおすすめします。口の体操や舌の体操をすることでのみ込む力を改善することができます。よく話すこと、バランスよくさまざまな食材をしっかり噛んで食べることも効果的です。ただし、今はコロナ禍で人と会う機会が減っている人も多いでしょう。

 その代わりに、積極的に運動をするのもいいと思います。全身に筋肉がつけば、口や喉の筋肉も増えます。私もこれを意識して、日々、筋トレに励んでいます。なお、オーラルフレイル対策の方法は歯科医師会などを中心にホームページで紹介されていますので参考にしてください。

 もう一つは歯周病対策です。誤嚥性肺炎の元凶となる歯周病菌を増やさないために、定期的に歯医者に行って、歯みがきでは取り切れない口の中のプラーク(細菌の塊)を取り除いてもらいましょう。すでに歯周病と診断されている人は主治医の指示に従って、メインテナンスを受けるようにしてください。

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若林健史

若林健史

若林健史(わかばやし・けんじ)。歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演。AERAdot.の連載をまとめた著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか?聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中。

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