たとえばあるチームリーダーが、「今期の売り上げを達成して、俺は部長になるんだ」と口癖のように言っていたら、その部下たちはどう感じるだろうか。「チームで達成する目標=上司の野望」とイコールで映ってしまうことは、部下たちに「え、俺たち、上司の出世のために働いているんだったっけ?」というゆがんだ感情をもたらしかねない。

 一方、内村の“無欲なスタンス”は、関わっていくチームにいい循環を生み出している。古立氏いわく、内村と一緒に番組作りをしていると、関係者がみな「純粋でいられる」のだという。

「内村さんが俗物じゃないからですよね。僕たちはどこか内村さんを笑わせたかったり、喜ばせたくて単純に“おもしろいことをしよう”というシンプルな動機で働いていられる気がします」
 
 広辞苑で「俗物」をひくと、「名誉や利益にとらわれてばかりいるつまらない人物」とある。内村の行動原理は、お金もうけや名声にはなく、シンプルに、「おもしろいことをしたい」「視聴者に笑ってほしい」、ただそれだけ。

 これは古立氏に限らず、今回取材協力いただいた関係者がおしなべて口にしていたことである。

「内村さんがそういう姿勢だから、現場の空気も自然とそうなるし、ひいてはスタッフの純粋なやる気をも引き出しているというか」(古立氏)
 
 ここで重要なのは、古立氏が述べているように、内村の周りのスタッフや関係者は「内村が目指す番組づくり」のために働いているが、決して「内村の目的や出世のため」に働いているのではない、という感覚をみなが持っている点にある。

 すなわち、“果実”に該当する内村個人が手に入れたい野望をみんなで助けているわけではなく、内村の人柄に惹かれながら、「お茶の間の人に笑ってほしい」という内村の目指す番組づくりを、それぞれのスタッフが「共有目的」として捉えて、取り組んでいる。

 こうした「共有目的」でつながれたチームはおのずと、チーム員もおのおののつまらぬ欲を持ち出そうとしなくなる。目の前の業務の成功に集中することができる。そのような空気をつくり出せている要因はやはり、成果の先にある栄光や称賛といった「果実を狩ろうとしていない」、内村のリーダーシップが大きい。

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「野望ではなく、人としての在り方で惹きつける」。これが、内村が実践しているリーダーシップが生み出す、“究極 のチームづくり”といえよう。

●畑中翔太(はたなか・しょうた)
博報堂ケトルクリエイティブディレクター。アクティベーション領域を軸に手段とアプローチを選ばないプランニングで、「人を動かす」統合キャンペーンを数多く手掛ける。 これまでに国内外の150以上のアワードを受賞。Cannes Lions 2018 Direct部門審査員。2018年クリエイター・オブ・ザ・イヤー メダリスト。