■「合格者60%」より「合格者20人」のほうが合格する気がする

 生徒は、どの塾に入るか決める際に「志望している学校へ何人合格しているか」を決め手にする人が多いようです。講師の信念のような見えないものよりも、目に見える数字のほうが、説得力をもつからです。

 ただ、やはり生徒がここで見落としてしまいがちなのが、受験者の「母体数」、つまり「不合格だった生徒の人数」なわけです。

 でも、考えてみてください。生徒数が多い大手のA塾で、100人の生徒が某有名大学を受験し、20人が受かったとします。対して、小さなB塾では5人が受験し、3人が合格したとします。このとき、A塾は合格率がたった20%しかないにもかかわらず「合格者20名」と書かれ、B塾では合格率が60%もあるのに「合格者3名」になるわけです。

 このように、母数に触れないことで、「志望する有名大学に受かるためには、A塾に通ったほうが安心」という考えに誘導するのが、大人数の生徒を抱える大手塾のやり方だったりします。

 合格者20人という華々しい数字だけを見て、後ろにある不合格者80人について(塾側はともかく)なぜ親や生徒側も全く触れないのか。私はそこにもまた、巧妙な数字のトリックが隠されていると考えています。

 たとえ大手塾で有名大学の合格率が60%と高くとも、パンフレットは合格者数20人と書いたものを用意するのではないかと思います。

 みなさんも、「うちの塾は合格率60%」と言われるより、「20人が合格した」と言われたほうが、自分も合格する気がしませんか?

 実はここが盲点で、「合格率60%」という数字を見ると、同時に必ず、「不合格率40%」という数字が頭に浮かんでしまうのです。そして、「果たしてこの40%の中に自分が入ってしまわないだろうか?」という、不安が生まれてしまうわけです。

 しかし、単純に「合格者20名」という数を伝えられるだけならば、桜の木の下で、合格して喜んでいる姿しか頭に浮かびません。割合ではなく人数を出すことで、不合格のにおいを一切消し、想像させないようにできるわけです。

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