村松弁護士は今回の兵庫県の対応について「職員の加害行為がどのようなものか」「県が予防措置を取っていたか」がポイントだと語る。

「職員については、閉め忘れという単純なミスで特に害意があるものではないという点。県の予防措置については、この職員ひとりで立ち会いをさせていたことや、1カ月後に水道局からの指摘があるまで水道メーターの異常に気づかなかったという点を考慮すると、300万円という金額は過大だと思います」

 さらに、村松弁護士は、県が請求額の参考とした裁判例の解釈にも疑問を呈した。

 兵庫県が参考にした裁判は以下のようなものだ。争点のひとつとなったのは、東京のある都立高校でプールの排水バルブを閉め忘れたまま給水を行ったため、100万円余りの余分な水道代が発生したという過失に対して、教職員ら7人がそのほぼ半額を弁償したことの妥当性だ。原告である都民は、独自に損害額を算定した上で「都は教職員らに全額を請求すべきだ」と主張したが、裁判所は「賠償額は半額を限度とするのが相当」と判断し、請求を棄却したというものだ。

 村松弁護士はこう語る。

「この裁判例は、《プールの排水バルブ閉め忘れにつき教職員らが損害額(水道料金)の半分を負担した》という点が似ているように思えます。ただ、これはその数年前に都内の学校でプール水の流失事故が起き、再発防止に努めている中で起きた事故です。また、その損害額は100万円余りであり、負担者は教職員7名だったという点でも違いがあります」

 表面的には似ている事案に見えるが、社会的な背景も負担の度合いも今回のケースとは異なるというのだ。

「一般企業で、単純なミスをした社員一人に300万円を請求することはまずありませんが、兵庫県の場合は、損失額を税金で支払うことについての県民感情も考慮して、金額を決定したのだろうと思います。ただ、貯水槽の様子や水道メーターを数日後にチェックするなどの対応を県が取っていれば、ここまで大きな損失額にはならなかったはずです。県民感情を考えると『弁償なし』ということにはできないでしょうが、一個人に300万円を支払わせるというのは、乱暴ではないかと感じます」

 ミスは許されないとはいえ、仕事につきものでもある。わが身に置き換えて考えると怖い話だ。(AERAdot.編集部)