写真はイメージです(C)GettyImages
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カップルカウンセラーの西澤寿樹さんが夫婦間で起きがちな問題を紐解く連載「男と女の処世術」。今回のテーマは「一度壊れた関係の修復」について。自分に非があると思うと過去を反省し、「今後は○○します」と未来を誓う――というのがよくありがちですが、実はこのパターンがよろしくないと言うのです。いったい、どういうことなのでしょうか。

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 年末年始、Netflixで公開されている「愛の不時着」が人気でしたね。ご覧になられた方も多かったと思います。

 恋愛ドラマ、というか女子がきゅんと来るストーリーにはいくつかのパターンがあるという話を聞いたことがあります。いわく、「この人」と意識する前に、気づかずにどっかで既に出会っていた、というのがその一つなのだそうです。

 確かに「愛の不時着」もそういう構図になっています。出会ったのが偶然であると同時に運命だったんだ、というのがいいのだそうです。

 ふと、しばらく前にお会いした智弘さん(仮名、40代、管理職)の話を思い出しました。

「共働きなのに、妻一人に家事や子育てを押し付けてしまって……仕事をしていたのは事実で、仕事に頑張ることが家族のためだと思っていたんですが、こんな手紙を置いて妻が子供を連れて実家に帰ってしまって……」

 その手紙には、「私は孤軍奮闘して、心も体も悲鳴を上げてあなたに助けを求めたけど、あなたは聞いてくれなかった。もう愛情がなくなってしまった。いまでは憎しみすら感じることがあるから、もう一緒に生活するのは無理だと思う。だからいったん実家に帰ります」というような趣旨のことが書かれていました。

 智弘さんはそれを読んで、こうおっしゃいました。

「私は頭をガーンと殴られて目が覚めた思いで、すぐには無理かもしれませんが、少しでも愛情を取り戻してもらうために自分なりにできることは何でもする決意なんです。ただ、変わった自分を見てもらうチャンスを欲しいといっても、妻は、愛情が戻らない限り実家から帰るつもりはないとけんもほろろで、変わった自分を見てもらうチャンスすらもらえずどうしたらいいかわからないので、何でもいいので解決の糸口が見つかればと思って」

 そこで「自分なりにできること」として、どんなことをしようと思っているのか聞いてみました。

「共働きなのに、家事の分担が不公平だったので、できる限り会社から早く帰って、妻が料理している間は子守をして、掃除、洗濯、風呂掃除はするようにするとか……」

「他にも何かありますか?」

 とお聞きすると、不意をつかれたような沈黙の後、こうおっしゃいました。

「一緒に楽しい時間を作りたいです」

「例えばどんなことをして一緒に楽しむことをイメージしていますか?」

 そうお聞きすると、また、しばらくの沈黙の後にこうおっしゃいました。

「他愛もない話を普通に笑いあって話をするとかができれば楽しい気分になると思います」

 ここまで読んで、仮に妻が「お試し期間」として1週間帰ってきて、これでうまくいくと思われる方はどのくらいいらっしゃるでしょうか。

 人間のことなので「100%」はありませんが、私は、これでは何ともならないだろうと想像しました。

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西澤寿樹

西澤寿樹

西澤寿樹(にしざわ・としき)/1964年、長野県生まれ。臨床心理士、カウンセラー。女性と夫婦のためのカウンセリングルーム「@はあと・くりにっく」(東京・渋谷)で多くのカップルから相談を受ける。経営者、医療関係者、アーティスト等のクライアントを多く抱える。 慶應義塾大学経営管理研究科修士課程修了、青山学院大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。戦略コンサルティング会社、証券会社勤務を経て現職

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