■「愛の不時着」と決定的に違う点

 つまるところ、智弘さんのゴールは、「現在は存在しない智弘さんに対する愛情をもってもらうこと」のようです。それを前提にすれば、その目標達成のためにどんな方法が効果的か、と考えるのが妥当でしょう。

 そこが冒頭の「女子がきゅんとなる」プロットの話とつながります。これはドラマだからできるプロットですが、「出会い方」が重要だという話なので、「初見で一目ぼれ」ならまだどうにかその後の「出会い方」の演出ができるかもしれません。が、既に出会っている智弘さんのケースではなかなか難しそうです。で、智弘さんは家事を手伝うという方法で彼女の愛情を獲得するとおっしゃっているわけです。

 しかし、例えば、私が「愛の不時着」のヒロインのソン・イェジンさんを好きになって、
「私があなたを口説きたいから、1週間同居して私を見てもらうチャンスが欲しい」
 と言ったとして、そもそもそんな話が通るとは思えませんし、仮に万々が一、それが実現したとしても、私が家事を誠心誠意することで、彼女が私を好きになることは考えられません(家事で恋愛が成就するならみんなあこがれの人と結ばれるはずです)。

 私の話が荒唐無稽なのだとしたら、智弘さんの話も同じ構図ですから、可能性が相当に低いことが予想されます。

 紘三さん(仮名、50代、起業家)の話も似たような感覚を覚えました。紘三さんは10年ぐらい前に不貞が発覚して一時夫婦仲が険悪になったものの、どうにか「乗り越えた」そうですが、仕事だといって部下の女性と飲みに行ったりしていたのがばれたりして、また関係が悪化したのだそうです。

 そのうえで、こうおっしゃいます。

「妻が自分に関心がなくて、男女の愛情っていうのはもうなくて、空気のような存在だっていうんです。でも、私は妻のことを愛しているんです。どうにかそのことをわかってほしいのです」

 これって、自分のことを多少ネガティブにみている女性を口説くのと似ているなぁと思いました。自分のことをどちらかといえば避けている異性を好きになったら、どうやってアプローチしますか?

 紘三さんは何回かおいでになった帰り際に、私のオフィスのそばの店の名前を挙げて、「あの店どうですかね?」とお聞きになりました。その店は、私がランチに行くような店ではないので、いわれるまでそんな店があることすら気づいていませんでしたので、その旨を伝えると、

「私だって頑張っているんですよ」

と、にこやかにおっしゃいました。

 ああ、紘三さんはこういう風に頑張るんだな、と思いました。おいしくて雰囲気の良いお店に連れていって、楽しませてあげることが、自分への好意や愛情を獲得する紘三さんなりのやり方なのです。事実、相手が仕事上のお付き合いの方(接待)でも、プライベートで仲良くなりたい女性でもそれでうまくいってきたのでしょう。

 智弘さんの一緒に楽しい時間を作る、という話を一歩具体化したものです。

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「楽しい時間を共有する」は“万能”ではない