鬼殺隊の隊士たち(画像はコミックス194話の表紙より)
鬼殺隊の隊士たち(画像はコミックス194話の表紙より)

鬼滅の刃』は、週刊少年ジャンプに連載された「少年向け」の漫画であるが、年齢層を問わず、爆発的な人気を得た。ただ、国民的人気漫画となったゆえ、物議をかもした点もある。年端もいかない子どもたちが、あまりにもたくさん亡くなることだ。少年、少女たちが鬼殺隊の隊士として、自らの生命を他人にささげるストーリーは「特攻隊の美化」のように受け止める人もいた。はたして『鬼滅の刃』は、「危険な漫画」なのだろうか。(以下の内容には、既刊のコミックスのネタバレが含まれます)

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■傷つき、倒れゆく「鬼殺隊」の隊士たち

 鬼殺隊の隊士たちの多くは、大切な人を鬼に殺害されている。主人公の竈門炭治郎(かまど・たんじろう)とその妹・禰豆子(ねずこ)は、母親と兄弟たちを亡くし、水柱・冨岡義勇(とみおか・ぎゆう)は姉を、風柱・不死川実弥(しなずがわ・さねみ)兄弟は母を鬼にされ、ほかの兄弟たちを失っている。岩柱・悲鳴嶼行冥(ひめじま・ぎょうめい)は自分が親代わりとなって面倒を見ていた孤児たちを殺され、蟲柱・胡蝶しのぶ(こちょう・しのぶ)は父母と姉と弟子たちを、蛇柱・伊黒小芭内(いぐろ・おばない)は親族を、霞柱・時透無一郎(ときとう・むいちろう)も双子の兄を鬼に喰われている。名も無い隊士たちも、それぞれに大切な人を鬼に奪われている。

 鬼殺隊の主力メンバーたちの平均年齢は低く、10代の者も多い。主人公の炭治郎は15歳だ。「柱」ですら最年長が27歳の悲鳴嶼で、最年少の時透はなんと14歳である。隊士たちは、無力だった子ども時代に、親兄弟を失っているケースが多い。彼らの心は、大事な人を亡くしたその時、「子どもの頃」に一度死んでいる。時が過ぎ、肉体は成長し、強さを身につけてはいくものの、隊士たちは、あの「悲しかった子ども時代」から抜け出せないままに、鬼滅の刃をふるい続ける。それでも、鬼との戦闘のなかで、多くの隊士たちが志半ばで命を落としてしまうのである。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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「戦時中の美化された特攻のような描写だ」