朝日新聞は過去の慰安婦報道について、2014年8月5、6日付朝刊に計4ページにわたる検証記事を掲載した (c)朝日新聞社
朝日新聞は過去の慰安婦報道について、2014年8月5、6日付朝刊に計4ページにわたる検証記事を掲載した (c)朝日新聞社

 朝日新聞編集委員・北野隆一氏が6年間の取材記録をもとに、朝日新聞の慰安婦報道と、これに対する集団訴訟の経過を記した『朝日新聞の慰安婦報道と裁判』(朝日選書)。戦時中の朝鮮・済州島で女性を慰安婦にするため強制連行したとする吉田清治氏(故人)の証言などを伝えた朝日新聞の慰安婦報道をめぐり、右派3グループが朝日新聞社を相手に起こした集団訴訟は2018年2月、すべて原告側の敗訴が確定した。

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 一連の訴訟から見えてきたのは、吉田証言が否定されても、慰安婦問題全体が「うそ」や捏造だったとはいえないということだ。問題の本質はどこにあるのか――。慰安婦制度の「強制性」や、元慰安婦の女性らの証言内容について、公文書やさまざまな資料で裏付ける取材を重ね、本書で詳述した北野氏が、執筆にかけた思いを寄稿した。

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 朝日新聞の慰安婦報道をめぐって、強い批判や非難が巻き起こったのは2014年8月5、6日の朝刊に検証記事が掲載されたときのことだ。当時の木村伊量社長は9月11日に記者会見して謝罪し、のちに辞任。保守・右派から朝日新聞社を相手取った集団訴訟が3件起きた。一連の対応をめぐって朝日新聞は信頼を損ない、大きく部数を減らした。

 筆者は2014年の検証取材班に参加し、それ以来、渦中で慰安婦問題の取材を続けてきた。脳裏を離れなかったのは「朝日新聞は何を間違えたのか」という問いだった。右派の集団訴訟や集会にも足を運び、朝日新聞に向けられた厳しい言葉の一つ一つを書きとめ、考えた。6年間の取材は『朝日新聞の慰安婦報道と裁判』(朝日新聞出版、朝日選書)の題でまとめられ、8月上旬に刊行された。

「慰安婦を強制連行した」とする吉田清治氏の証言(吉田証言)の報道の信憑性に対する疑義が現代史家の秦郁彦氏により示されたのは1992年。これを受けて朝日新聞は97年に検証記事を掲載した。吉田証言について「真偽は確認できない」と書き、これで「解決済み」と考えた。訂正やおわびはしなかった。

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