小説の舞台にした新明区には、特区の象徴として巨大なツインタワーが存在します。その1棟は入居者が最先端の医療を受けられる医療棟です。こうした施設が実際にあればいいなという密かな願望も入れました。小説内では、そこで悪事が行われるのですが……。

 そういった医療の仕組みや、政治との関わりは、これからも小説に取り入れていきたいと思っています。

――『黒崎警視のMファイル』では、YouTubeを使って、患者自身が病状を訴え、移植手術のドナーを募る場面があります。現実世界でも、効果的な手段のような気もしますが?

 YouTubeで患者さんが自身の病状などを配信するのは、効果的だと思います。ただ、今作に出てくるのは臓器の提供ですから、現実面ではなかなかむずかしいのではないかと思います。「YouTubeを見て共感したから、赤の他人に私の臓器を提供します」とは、いかないのではないでしょうか。ただ、広く寄付を募ったり、クラウドファンディングのように資金を集めたりする点においては役に立つかもしれません。また、作品内にも登場するような移植手術を待つ患者さんたちは、身体の不調と日々、闘っています。そう考えると、介護補助などのボランティアを募るのも悪くないのではないでしょうか。

――今後も政府事業についての暗部をテーマにしていく?

 はい。女性の目から見た箱物行政を中心にして、そこに関わる人々の喜びや苦悩、善や悪について考えていきたいと思います。そもそも善・悪とは何か? という難しい問題もあります。

 今回の作品でいえば、一見すると刑事である灰嶋は善人で、国家未来戦略特区を牛耳る小暮伸一郎が悪人に思えますが、そうとは言い切れないでしょう? 小暮の家族や周辺の人間にとっては、小暮は善人かもしれないわけですから。極端な話ですが、人は『自分にとって善い人は善人』と思いがちではないでしょうか。そんな簡単なものではないような気がしています。

 淀んだ日本の空気を一掃して、少しでも風通しをよくしてくれる作品を書いていきたいと思います。