国が災害と認定しないのは、認定すると金銭面で大変だからではないでしょうか。今回は相当数の老舗が店を畳まなければならない状況に追い込まれました。何とかできなかったのだろうか。早い時点で救済措置が取れなかったのだろうか。そうした、やり場のない怒りがありますね。

――『黒崎警視のMファイル』では、箱物行政を隠れ蓑にして巨悪が動き出します。政府の大きな動きの中では、こうしたことも起こり得るのではないかという不信感もありますか?

 箱物行政は、とても怪しいことだらけだと思っています。最近でも、怪しげな事業があったことを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。その点は、作品内でも黒崎に少しだけ言及してもらってもいます。さすがに、小説に登場するような悪事を働くことはないと信じますが、今後、政府主導で進める箱物行政が抱える問題について、黒崎がどのように暴いていくのか。書いている私自身、とても興味があります。

――小説が政治を変える、というようなことはあり得るでしょうか。

 難しい問題です。ノンフィクションの作品が問題提起をして、それに触発された人たちが動く、ということはあるかもしれません。もちろん、フィクションである小説が個々の考え方に影響を与えることはあると思います。ひとりひとりは小さな力でも、集まれば大きなうねりを起こせるかもしれない。可能性はゼロではないでしょう。ただ、最近の香港などの状況を見ると、個々の力がどこまで通用するのか。厳しいものがあるかもしれません。

――小説の中で医療問題を扱っていますが、そのきっかけは?

 医療問題は、他のシリーズ『警視庁行動科学課』『医療捜査官 一柳清香』でも取り扱っています。特に後者は医療問題をメインに据えた作品です。こういった問題を扱うきっかけは、私自身が関節リウマチを発症したことが大きいかもしれません。医療費がとにかく高い。これは新薬の開発のために多額の費用がかかるためとされていますが、ガンなども治療費は高額です。

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