■自分を裏切った夫をGPSで「監視」する妻

 新型コロナの防御は物理的問題ですから、ソーシャルディスタンスとステイホームということが言われています。一方、夫婦を含む人間関係は心理的問題ですので、心理的距離感や自由な心の動きの抑制と置き換えることができます。心理的距離についてはよく言われることなので、今回は自由な心の動きの抑制について考えてみたいと思います。

 自由というのは、福沢諭吉が「自らに由る」という意味のこの言葉を英語のfreedomの訳語にあてたのだという話を聞いたことがあります。自らに由る、大げさに言えば他の誰でもない自分自身のすべてを背負った自分の生きざまということになると思いますが、その結果として双方ともがパートナーを愛し、大切にする、という状態であることが多くの人が望み思い描いたゴールだと思います。しかし、それが危うく感じた時、その「ありたい姿」をゴールにするのではなく、そのありたい姿の時にこういう「見た目」になるはずだという「見た目」、つまり物理的結果をゴールにしようとする人も少なくありません。コロナウイルスに精神論が役立たないのと同じように、心理的問題に物理的な方略はあまり役に立ちません。

 菜美恵さん(仮名・30代前半、派遣社員)は、何度も自分を裏切った夫の幹人さん(仮名・30代後半、自営業)に誓約書を書かせ、スマホのGPSでいつどこにいたかわかるアプリで、監視しています(菜美恵さんによれば実際には監視しているわけではなく、自分の行動をみられているかもしれないという危機感を持ってもらうための方便だそうです)。

 夫がいかにひどいかを声高に訴えていた菜美恵さんと、「自分が悪いのだから仕方ない」と言っていた幹人さんですが、菜美恵さんに「私のこと好き?」と聞いてください、と促すと、しばらく黙ったのち、泣きそうな声で、

「言えません」

と言いました。

「言いにくいのは、何が邪魔してますか?」

とお聞きすると、

「嫌いだと言われるのはわかっているんです。でもそう言われたら、もう立ち直れないので」

とおっしゃいます。


次のページ
「強制された状況」に適応した男性は……