童謡では、「鉄道唱歌」のほか新幹線を歌った「はしれちょうとっきゅう」などが広く知られている。「鉄道唱歌」は国鉄時代の車内放送に用いられており、子どものころの記憶とともに思い出されることもあるが、いまの子どもたちにとっては2012年にリリースされた「新幹線でゴー!ゴ・ゴー!」などが馴染み深いだろう。

■クラシックには当時新聞報道された名曲も

 クラシック音楽にも鉄道と結びついた作品がいくつもある。

 鉄道と音楽──「知らない曲がたくさんあるのだろう」とネット上を検索してみた。すると、Wikipedia(英語版)にズバリ「List of train songs」という項目があり、数える気が失せるほど膨大な楽曲が挙げられていた。

 英語版だけに残念ながら、先に挙げた「路面電車」や京急の品川駅で発車メロディに使われているくるりの「赤い電車」などの人気作や「鉄道唱歌」は含まれておらず、クラシックの楽曲も別のカテゴリーとされているようだ。

 クラシック音楽にも鉄道と結びついた作品がいくつもある。

 この分野でもっとも著名なのは、オネゲル(Arthur Honegger)が1923年に発表した「パシフィック231」であろう。作曲家の柴田南雄(しばたみなお)氏の「ドラフトのリズム」(「旅と鉄道No.21 76年秋の号」鉄道ジャーナル社に所収)によれば、当時の日本の新聞に「機関車の音楽完成さる、作曲者はオネガー氏」との大見出しつきで紹介されたという。

 柴田氏の同じエッセイによれば、その新聞記事では「私は機関車にいつも情熱(パッション)を抱いている。(中略)曲は客観的な瞑想状態──つま<ママ=柴田氏>休止している機関車の静かな息づかいから始まる。スタートの緊張、スピードをしだいに増していき、そしてついに夜のしじまに分速1マイルの轟音を響かせながら突進する(後略)」と作曲者オネゲルのコメントを紹介しており、たしかに曲の構造とも合致する。

 譜例はこの曲の12~30小節を大譜表に置き換えたものだが、低音部のリズムが全音符→付点2分音符→2分音符→2分3連符→4分音符と次第に細かな動きになってゆくのは、低音の響きもあって、蒸気機関車が動き出す躍動を見事に捉えているように思える。

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車輪配置というメカニックに着目した楽曲名