文部科学省によって英語民間試験の活用延期が発表されたのは昨年11月1日。教育関係者たちは安堵や落胆の声を漏らした。しかし延期発表後も、保護者や受験生の間では混乱が続いていた。「AERA English 2020 Spring & Summer」(朝日新聞出版)から抜粋して紹介。

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 昨年11月1日、全国高等学校長協会(全高長)の会長を務める萩原聡・東京都立西高校長は、福井県で開かれた全国の普通科高校の校長が集まる会議に出席していた。その席で、2020 年度に始まる大学入学共通テストへの英語民間試験の活用について「文部科学省が導入延期を発表した」という一報を聞いた。

「その場にいた校長の多くから安堵の声が聞かれました」

 全高長は同年7月と9月の2回にわたり、文科省に民間試験活用の延期を求め要望書を出していた。

「暗中模索をしなくてよくなったことには安心しましたが、ここからが始まりだと、心を新たにしました」

 民間試験の導入はなぜ見送られたのか。その経緯を振り返ってみよう。

 21年1月から始まる大学入試で、大学入試センター試験は「大学入学共通テスト」へと変わる。英語については「読む」「聞く」力に加え「話す」「書く」力を評価するため、共通テストに加え、英検、GTEC など七つの民間試験を活用する方針が示された。来春入学の受験生はこれらから受けたい試験を選び、今年4~12月に受験する予定だった。

 しかし、昨年夏ごろ、受験日や会場が未定、大学が入試への活用法を明らかにしていない、といった準備の遅れが表面化。高校現場や保護者などから「このまま導入すれば混乱が起きる」という声が上がり始めた。

 東京都内の私立高校2年の男子生徒の母親は、昨夏高校で開かれた保護者会で民間試験についての説明を聞き、「理解するのが難しい入試制度だと感じた」と振り返る。

「高2までの民間試験のスコアは使えないことなど、私もその場で初めて知ったことが多かった。わからないことだらけで、先生は保護者の質問攻めにあっていました」

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