(イラスト/寺平京子)
(イラスト/寺平京子)

 人口の15~20%、1千万人以上──日本における耳鳴りの推定患者数だ。「耳鳴りが続くと耳が悪くなる」と思われがちだが、事実は異なる。最新の医学が明らかにしたのは、「耳鳴りは耳ではなく脳のせいで起きる」ということだった。週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』では、専門医を取材した。

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 耳鳴りとは、「実際には音が鳴っていないのに音を感じる現象」だ。耳鳴りのメカニズムとして、昔は「耳(内耳)の異常により起こる」と考えられていたが、近年では「難聴によって脳に伝わる音が減るために、脳が音をキャッチしようと過剰に働くことで起こる」ということがわかっている。

 しかし、「日本ではまだ世界標準的な耳鳴りの治療を受けられる医療機関は少ない」と慶応義塾大学病院・耳鼻咽喉科の神崎晶医師は話す。

 通常、耳から入った音は、内耳の蝸牛という部分で電気信号に変換され、聴神経を通って脳に伝わる。しかし、難聴になると脳に音が伝わらなくなる。

 加齢により起こる難聴・加齢性難聴を例に取ろう。加齢性難聴は、蝸牛の有毛細胞が障害されることで高音が聞き取りにくくなるという特徴をもつ。その場合、高音の電気信号だけが耳に届かなくなるため、脳が高音の電気信号を補おうと過度に反応し、耳鳴りが発生する。耳鳴りの患者数は全人口の15~20%といわれているが、なかでも65歳以上の高齢者は有病率が高く、約30%といわれている。

 耳鳴りがあると、「このままでは耳が聞こえなくなるのでは」と心配する人がいるが、実際はその逆だ。耳鳴りが難聴の原因になるのではなく、難聴があるから耳鳴りが起こると考えられる。では、難聴にはどう対処すればいいのだろうか。

 難聴には、先天性の病気や中耳炎、加齢などいくつかの原因が考えられる。病気による難聴には、治療により改善するものもあるが、加齢による難聴には今はまだ根治的な治療法はなく、補聴器を装用して聞こえを補うことが有効だ。

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補聴器装用には補聴器相談医の受診を