難聴を放置すると、コミュニケーションが減るなどの理由から、うつや認知機能の低下につながるといわれている。2017年のアルツハイマー病会議では「難聴は認知症の予防できる要因のなかで最大のリスク因子」と報告され、注目を集めた。そのため難聴がある場合は、認知症予防のためにも早めの補聴器装用がすすめられる。

 ただ補聴器は、つければすぐに聞こえるようになるものではない。聴力に合わせて適切に調整し、脳を「補聴器による聞こえ」に慣らすためのトレーニングが必要だ。補聴器の活用には、資格を取得した認定補聴器技能者による調整が重要になる。

 そのためにはまず、補聴器装用に関する専門的な知識と技能を持つ補聴器相談医を受診し、診療情報提供書を発行してもらう。日本耳鼻咽喉科学会では、この提供書を認定補聴器技能者のいる認定補聴器販売店に持参することを推奨している。

 杉内医院院長の杉内智子医師はこう話す。

「診療情報提供書は、補聴器装用に必要な患者さんの診療情報をまとめた書類で、販売店で補聴器の調整などをおこなう認定補聴器技能者との連携においても大切な役割を担います」

 このため18年からは診療情報提供書の活用により、補聴器購入において医療費控除が受けられるようになった。

 このように、難聴には補聴器装用が有効だが、難聴によって起こる耳鳴りの対処法としても、補聴器装用は有効だ。

 先ほど述べた通り、日本ではまだ耳鳴りの治療をおこなう医療機関の数が少ない。そのような社会的背景から、19年には科学的根拠に基づく適切な診断と標準的治療の普及を目的として、日本聴覚医学会により日本で初めて「耳鳴診療ガイドライン」が発行された。

 現在、国内で耳鳴り治療として最も多くおこなわれているのは薬物療法だが、ガイドラインによれば、使用されているほとんどの薬剤で、耳鳴りへの効果は認められない。ただし、抗うつ薬については、うつ症状を伴う耳鳴りには改善効果が期待できるとされている。

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治るためには根気強く通い続けること