準々決勝の智弁和歌山戦で1回裏に同点に追いつく先頭打者ホームランを放つと、3対3で迎えた9回裏にはサヨナラホームランで試合を決めて見せたのだ。1試合で先頭打者ホームランとサヨナラホームランを放つのは春、夏の甲子園合わせても史上初の快挙である。しかもそれを下級生が成し遂げたというのだから驚きだ。更に今年夏の甲子園でも準決勝の履正社戦で再び先頭打者ホームランを放っており、既に甲子園通算ホームランは3本となっている。これは2年夏の終了時点では藤原を上回る数字である。

 来田の魅力はもちろん長打力だけではない。ここまで3季連続で出場した甲子園の9試合中8試合でヒットを放ち、通算成績は35打数13安打、打率.371と確実性も非常に高い。また今年夏の花咲徳栄戦で放ったツーベースの二塁到達タイムは7.81秒をマークしており(8.00秒を切れば十分に俊足というレベル)、脚力も申し分ない。藤原に比べるとスローイングの強さは少し劣るように見えるが、総合力では近いレベルにあり、来年春以降の活躍次第では十分に1位指名の可能性もあるだろう。

 高校生の外野手でもう一人紹介したいのが細川凌平(智弁和歌山)だ。レギュラーとなったのは1年秋からだが、1年夏も代打で出場しており、来田と同じくここまで3季連続で甲子園出場を果たしている。そして今年の夏、細川も2回戦の明徳義塾戦で貴重な勝ち越しスリーランを放ち、一躍その名を挙げた。細川の最大の持ち味はその類まれなバットコントロールにある。内側からきれいに鋭く振りだし、どのコースもきっちりと芯でとらえて広角に打ち返すバッティングは高校生では間違いなくトップレベルだ。

 この秋の近畿大会でも準々決勝で智弁学園に敗れたものの、2試合で7打数4安打と持ち味は十分に発揮している。センターから見せる強肩と、脚力を生かした積極的な走塁も高レベルだ。172cm、70kg(秋の近畿大会パンフレットから)と小柄な体格のため現時点では上位候補という声は聞こえてこないが、総合力は決して来田にも引けは取らない。むしろヒットを打つ技術とスローイングに関しては細川に分があると言えるだろう。

 プロでも社会人出身ではあるが小柄な近本光司(阪神)が1年目から大活躍を見せており、能力の高い外野手の需要は高まっているように見える。来年の高校球界では来田、細川がその流れに続く代表格として大暴れし、ドラフト戦線を賑わせてくれることを期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

著者プロフィールを見る
西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

西尾典文の記事一覧はこちら