だが、なおも1死満塁のサヨナラ機に、大村直之はカウント3−1から強い当たりの投ゴロ。ゲッツーで延長戦突入と思ったスタンドの近鉄ファンから思わずため息がもれる。

 ところが、ここでまさか!  まさか!  のハプニングが……。難なく打球を処理した斉藤貢は、余裕で本塁に送球しようとしたが、なんと、ボールがグラブに挟まってしまい、取り出すことができない。「こりゃ、いかん!」と慌てているうちに、三塁走者・礒部公一がサヨナラのホームを踏み、無情のゲームセット……。

「(ボールが)挟まって取れなかった。悔しい。情けない」(斉藤貢)

 結果的に珍サヨナラ劇を生んだ強攻策について、佐々木恭介監督は「大村に(3−1から)“待て”のサインでも良かったが、押せ押せのあの場面で“待て”はないよ」と結果オーライならぬ“結果ヨッシャー!”に大喜び。

 この回、先頭打者として反撃の狼煙を上げた山本も「オレも21年間野球やってきて初めてや。ピッチャーゴロのサヨナラ勝ちは……」と目を白黒させた。

 一方、先発全員安打、全員得点を記録したのにピッチャーゴロで敗れるという悪夢のような試合に、ダイエー・王貞治監督は、就任3年目で初めて報道陣に対して一言もコメントすることなく、球場をあとにした。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2018」上・下巻(野球文明叢書)。

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久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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