8回に2点を返し、5対9と追い上げた中日は、9回にも先頭の代打・川又米利が四球を選んだあと、矢野輝弘、金村義明がいずれも左前安打を放ち、無死満塁のチャンス。終盤は完全な中日ペースとあって、ヤクルト・野村克也監督も胃がキリキリ痛むような思い。「筋書きどおりの逆転負け」を覚悟したほどだった。

 しかし、ここで伊東昭光が踏ん張り、次打者・鳥越裕介を二ゴロに仕留める。打球を処理した名手・辻発彦が二塁ベースカバーのショート・宮本慎也に送球して二封アウトを取ったあと、サード・ミューレン、捕手・古田敦也と転送され、三本間に挟まれた三塁走者・川又もタッチアウトで得点ならず。さらに古田から宮本に転送され、二塁走者・矢野も三塁付近でアウトになったことから、トリプルプレーで「まさか!」のゲームセット。

 この日の中日は、1回2死から投ゴロエラーをきっかけに先制点を奪われ、2回にも暴投や大豊泰昭のエラーなどで4点を追加され、守乱で自滅。攻撃でもヤクルトと同じ12安打を放ちながら、最後の最後で思わぬ大どんでん返しが待ち受けていようとは……。まさかの三重殺&ゲームセットに星野仙一監督もさぞかし怒り心頭かと思いきや、「信じられんことはないよ。今日のウチを象徴する場面だったから」と半ば自嘲気味だった。

 一方、相手の拙攻に助けられる形で幸運な逃げ切り勝ちを収めた野村監督は「まだツキがあるということや。中日にはようけ借金があるからなあ(この時点で6勝11敗)。10億円ずつ返さんといかん」と上機嫌で算盤をはじいていたが、その後、シーズン終了まで8連敗を喫し、7勝19敗と大きく負け越し。野球は本当に思惑どおりにいかないスポーツである。

 打者をまんまとピッチャーゴロに打ち取ったのに、思わず目が点になるような珍サヨナラ劇となったのが、97年6月14日のダイエーvs近鉄(藤井寺)だ。

 両チーム7本塁打が乱れ飛んだ大乱戦は、ダイエーが12対11と1点リード。9回裏、1点を追う近鉄は先頭の代打・山本和範が中前安打。1死後、中村紀洋の右越え二塁打と敬遠四球で満塁としたあと、水口栄二の右前タイムリーで同点に追いついた。

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ボ、ボールが投げられない!