私は7月生まれだったので、小学生時代はご多分に漏れず、努力の必要なく走るのが速めでした(そして当の本人たちは誕生日なんて気にしないので、自分は運動神経がいいと思っていました)。

 それでもマラソン大会もマラソン大会の練習も、嫌でたまりませんでした。楽しさがなくただ苦しいだけなのに加え、一人ひとりにきっちり順位が出て、誰に勝ったとか負けたとか学年全体で自分の番号が明確に可視化されるのですから。必然的にそれを周りの人間にまで把握されてしまうことは、かなりのストレスです。

 親になった今では、子どもに対して「走りきることが偉い」なんて言えますが、肝心の走る側としては、子どもですしどうしても順位が気になるでしょう。

■学校へ送られた「マラソン大会を中止しろ」という怪文章

さらに、最近はよく医療系の仕事をしている人たちから、「マラソンは膝関節への衝撃を和らげるために軟骨がすり減るから、しないほうがいい」という発言を聞くことがあります。医学部の教授まで、「自分は絶対にあんな不健康な運動はしない」なんて言っていました。

 というのも、軟骨は実は一度すり減ったら二度と再生できないのです。年をとるとよく「関節が痛くなる」と言う人が増えてきますが、これはまさに軟骨が減って、骨同士が直接ぶつかってしまうことが原因です。

 現在、平均寿命はどんどん延びているのだから、貴重な軟骨をすり減らしてしまう可能性はできる限り避けたいものです。

 また、成長期の子どもには「成長軟骨」というものが存在します。そこに過度な負担がかかると、成長障害を起こしたり、変形したりする可能性も出てきます。ですから、10歳くらいまでは「ずっと同じような負荷がくり返しかかる」運動(マラソンですね)は適切ではないといわれています。

 私が高校の頃、マラソン大会が嫌すぎた誰かが、匿名で学校へ「中止にしろ」という怪文書を送ったなんて事件までありました。

 結局、校長が全校生徒に「そういうことはしないように」と厳重注意をして、開催されていましたが……これほど精神的にも身体的にも苦痛を強いられる生徒が多いというのに、学校でマラソンをすることに対して、デメリットを超えるメリットを説明できる先生は、いったいどれだけいるのでしょうか。

 単純に、「学校は冬にマラソン大会を開催するもの」という慣例だけで行われているなら、あまりに理不尽だと思うのですが……。

 子どもたちがそろって嫌がるマラソン大会、この先、消えることはないのでしょうかね?

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杉山奈津子

杉山奈津子

杉山奈津子(すぎやま・なつこ) 1982年、静岡県生まれ。東京大学薬学部卒業後、うつによりしばらく実家で休養。厚生労働省管轄医療財団勤務を経て、現在、講演・執筆など医療の啓発活動に努める。1児の母。著書に『偏差値29から東大に合格した私の超独学勉強法』『偏差値29でも東大に合格できた! 「捨てる」記憶術』『「うつ」と上手につきあう本 少しずつ、ゆっくりと元気になるヒント』など。ツイッターのアカウントは@suginat

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