石本:やはりあらためて専門職が集まる場を設けて「じいちゃん、どうしたい?」と聞くのはナンセンスですね。「ぽろっと吐露する」というお話がありましたが、日常の会話からそうした意思を引き出すテクニックが専門職には求められると思います。言葉や手続きの問題ではなく、日頃、信頼関係を築いていくことですね。専門職がそういう存在になれているかというのも大事だと思います。ただ、ご家族が思っている方向性と、本人が思っている方向性は必ずしも同じではない。そこで本人の意思を尊重しながらご家族の理解を得ていくためにも信頼関係が必要です。

■誰もが少しずつ心の準備をしていく

石山:厚労省の説明では、ACPは「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」となっています。しかし、人生の最終段階はいつなのか。本当に差し迫った状態なのか、あるいはもっと前からか。高齢期に入ったら誰もが少しずつ心の準備をしていくのが大事なことだと思います。介護保険料を払う40歳から、親の介護を通じて未来の自分を想像し始めてもいいのではないでしょうか。

 一方、専門職はある程度予測ができますので、この人は1年後にどうなっているかイメージして1年後は存命していないかもしれない、と思ったら、そこが緩和ケアの始まりと捉え、意図的にそういった会話をしていくのが大事だと思います。

──親を看取る子どもとしては、自分からはこういう話はしにくいので、専門職の人に間に入ってほしいという期待もあるかと思いますが、いかがでしょうか?

石本:いまは専門職が間に入りながらとりなすというのが大事だと思います。ただ本来、家族同士がしっかり向き合うことが重要です。全部専門職にお任せでいいかというとそんなことはないはずです。

 私は講演会をさせていただく際に、よくこう聞きます。「自分」の人生、なんとか手を尽くして長く生きたいか、元気に生きて明日コロッと死ぬか。後者のほうに手を挙げる人が圧倒的に多いんです。では、主語を自分ではなくて「自分の愛する人」に置き換えたらどうか。みんな悩むんですね。このミスマッチが世の中にはあるんです。これに向き合いましょうと。

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ACPとは日常の中で患者の意思を確認していくこと