中島:病院から初めて訪問看護に転職してきた看護師に、「患者の今後の生き方について聞いておいで」と頼むと、戸惑う反応がありました。生死にかかわることのコミュニケーションは、基本的には医師がやるべきことという風潮が病院の中ではあったのです。そんな看護師でも、フォローしてあげながら患者さんと話していくうちに、希望に沿ったケアにつながっている、という実感が持てるようになり、やりがいを感じていきました。ご家族も本人が望む形にできました。

石山:私個人の経験で言うと、父の介護をして看取ったのですが、「もめ事を起こさないように遺言を書いてね」とお願いしたらすごく怒られました。父は心臓の病気で、いつ逝ってもおかしくないというときに、がんが見つかりました。さすがにもう治療をするという段階ではないと思ったのですが、父に聞くと、「何を言うか、手術を受ける」と。家族であっても何を求めているのかというのは本人に聞くしかないと感じました。いよいよ寝込むようになって、考えたり話したりする余裕がなくなり明確な意思を確認することは難しい状況になっていきました。

 ケアマネジャーは利用者さんが亡くなるまでのだいたいのプランニングが頭の中にあるのですが、多くのケアマネジャーが利用者さんに伝えるのは現在の話だけになりがちです。しかし日頃から人生のこの先を意識した会話をしたり、日々の会話のなかから価値観や考えを読み取るなど、会話のなかで自然に利用者さんや家族と一緒に確かめ合っていくことも大事だと思います。

■ぽろっと吐露することをキャッチしていく

──死に関する会話をどのタイミングでおこなうべきだと思いますか?

中島:たとえば、がんの終末期だからという理由で病院の外来を打ち切られ、在宅の医師や看護師を紹介されて、在宅の生活が始まる人もいます。そういうときは、どう過ごしたいとお考えですかと聞くことができます。あとは、在宅の経過のなかでからだが悪くなっていくのを患者さん自らが感じて、ぽろっと吐露することがあります。そういうことを日常の会話のなかでキャッチしていきます。

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家族と本人が思う治療の方向性は、必ずしも同じではない