阪神のエースとしての自覚が期待される西勇輝(C)朝日新聞社
阪神のエースとしての自覚が期待される西勇輝(C)朝日新聞社

 西勇輝は、東京ドームのグラウンドに両ヒザをついた。その姿は強烈なパンチを浴びた、KO負け寸前のボクサーのようだった。

【「平成で最もカッコいいバッティングフォーム」はこの選手!】

 10月13日、巨人とのクライマックスシリーズ・ファイナル第4戦の6回裏、丸佳浩のセーフティースクイズで勝ち越し点を奪われた直後だった。西自身の拙い守備も重なったが、失点した直後に西は崩れ落ちた。味方の攻撃機会も残っている中での行動からは『戦意喪失』の雰囲気が漂った。

「ガックリした。あれを見せちゃいけない。あれは『もうしょうがない』とすぐにマウンドに行くようにしなくちゃ。エース格ですから。エース格があんなにガックリした姿を見せちゃいけない。あれで勝負が決まったな、と思った。ナインに見せる態度じゃない」

 解説をしていた“ハマの大魔神”佐々木主浩氏のコメントには説得力があった。なぜなら、西はもはや『阪神のエース』としての立ち振る舞いが求められるからだ。

 西は2008年の秋、ドラフト3位でオリックスに入団。プロ入り当時から評価は高く、1年目終盤には一軍初登板を果たし、3年目には二桁勝利を挙げた。ローテーション投手として信頼を勝ち取っていったが、西の入団以降のチームは低迷気にあり、世間的には知名度は決して高くなかった(14年の2位以外はすべてBクラス)。

 そんな西を一躍、有名にしたのは12年10月8日、福岡でのソフトバンク戦だ。この試合は小久保裕紀の引退試合でもあったが、こともあろうか、その舞台でノーヒットノーランを達成してしまう。史上76人目、85度目の大記録であるのだが、「空気を読まない行動」などとネット上を中心に炎上した。

「誰もやるとは思っていなかったと思う」と西本人も戸惑いを隠せなかったが、この時のことをオリックス球団関係者は「記録達成してもおかしくない雰囲気だった。引退試合という周囲の雰囲気がそうさせたのか、試合前から普段と違うような感じでした。気合が伝わってきたので、試合中からベンチ内では笑いながら『ノーヒッターやるぞ』って話してました」と振り返る。

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