やはり、「本人といつもと違うことが起きていることを共有して、それが何かはわからないけど、何かの病気が潜んでいないか心配していることを伝えること」が基本になると思います。すんなりとはうまくいかず、根気強い対応を要することがほとんどかと思いますが、本人と共有したり、理解を得ることが難しい場合には、本人以外の家族でもいいので共有してみることが良案になることも経験します。

 今回は、認知症の症状に中核症状だけでなく、BPSDとも呼ばれる周辺症状があること、早期発見・早期介入によってお薬を使わない治療で対応できる可能性があることをご紹介しました。

 Aさんの旦那さまが認知症であるのかどうか判断することはかないません。しかし、もしそうであれば、適切な医療が旦那さまだけでなくAさんの健康・生活の向上に貢献できるものと思います。もしそうでなくとも、医療につながることで、生活における困難さをやわげる何らかの手段を見いだすことができるかもしれません。

 確かに「認知症自体の治療じゃないんでしょ」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、BPSDへの適切な対処は本人や支援者にとって非常に大切なものです。そして、それは可能な限り早期からの介入が重要になります。AさんやAさんと似た境遇で悩まれている読者にとって、本コラムが受診を検討する際の一助になればうれしく思います。

【引用】
1.公益財団法人長寿科学振興財団ホームページ 

2.公益財団法人長寿科学振興財団ホームページ

3.de Oliveira AMら。Nonpharmacological Interventions to Reduce Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia: A Systematic Review. Biomed Res Int. 2015;2015:218980. doi: 10.1155/2015/218980.

4.日本精神神経学会認知症委員会編『日本精神神経学会 認知症診療医テキスト』新興医学出版社(第1版)

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大石賢吾

大石賢吾

大石賢吾(おおいし・けんご)/1982年生まれ。長崎県出身。医師・医学博士。カリフォルニア大学分子生物学卒業・千葉大学医学部卒業を経て、現在千葉大学精神神経科特任助教・同大学病院産業医。学会の委員会等で活躍する一方、地域のクリニックでも診療に従事。患者が抱える問題によって家族も困っているケースを多く経験。とくに注目度の高い「認知症」「発達障害」を中心に、相談に答える形でコラムを執筆中。趣味はラグビー。Twitterは@OishiKengo

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