当時、同校駅伝部の監督を務めていた両角速(現・東海大学監督)は言う。

「目つきとか負けず嫌いの部分とかは当時と今も変わらない。入学したときに、将来は世界一になりたいと言ってましたから。すごい子が入ってきた、と思いました」

 1学年上に現在、日清食品グループに所属し、MGCにも出場する村澤明伸ら強い選手がいた。今でも語り草になっているのが、毎週水曜日の朝練習でのデッドヒートだ。その日は、高校の周囲に設定された6キロを走る。2度のアップダウンがある厳しいコースだ。最初は1キロ4分ほどのジョギングペースだが、上信越自動車道沿いの2回目の坂道で大迫が毎週、毎週、村澤ら先輩を引き離そうと“仕掛ける”のだ。
 
 当時、日清食品を辞めて母校のコーチに就任したばかりだった高見澤勝(現・監督)は「高校時代の大迫はまさしく、とんがっていた。負けん気の強さはその後の選手と比べても随一。朝練習のときからいろんな方法で村澤ら先輩に勝ちにいった」。ただ、村澤との実力差は歴然としていて「毎回、蹴散らされて悔しがっていました。在学中は村澤に一度も勝てなかった」

 9月のMGCはこれまでの4度のレースとは違った環境での戦いとなる。出場選手中トップの記録を持ち、他の選手からマークされる存在だ。暑さなど気象条件も厳しくなるだろう。しかし、大迫はこれまでの姿勢を崩すつもりはない。

「いつもと違って前に出て、ハイペースに持ち込むこともないですし、常に集団の中でいかにリラックスできるかを考える。9月で暑いので基本的にスローペースになると思いますけれど、速いか遅いか、暑いか寒いかでやらなくてはいけないことはそんなに変わらない」

 マークする選手の名前を口にすることもない。マラソンは自分を見つめる場所だという。

「その日その日、妥協なく過ごせるか、というところでいつも戦っています」

 厳しい視線は自分自身にも向けられている。
(取材・文=朝日新聞スポーツ部 堀川貴弘)

※『マラソングランドチャンピオンシップGUIDE』より抜粋