さて「私の恋人」だが、芥川賞作家・上田岳弘の同名の小説を原作にした音楽劇。台詞があるのはのんさん、渡辺さんの他に小日向文世さんの3人だけで、それぞれが10役以上を演じる。3人が次々と早替わりをしつつ、歌い、踊る。他に「天使」役の女性が4人。

 舞台上ののんさんは、「あまちゃん」の時よりずっと大人の顔になっていた。背も高く、実にモデル体型の人だと気づく。「あまちゃん」時代、脚本の宮藤官九郎さんがのんさんの「背」をよくエッセイに書いていたが、全然そんなことなかった。ネクタイを締めた男性、アボリジニの扮装の訛りのある子ども、クロマニヨン人、白ネコetc. とにかくいろいろな役の衣装がどれも似合う。

 渡辺さんの問題意識に基づいた、観念的な膨大な台詞を3人が繰り広げる。大ベテラン2人が相手だから、「のんちゃん、がんばれ」と手に汗握ってしまう。

 歌と踊りが軽快に入る。のんさんの歌は、渡辺さんや4回のオーディションで選ばれたという「天使」4人に比べれば、線の細さが目立つ。だけど徐々に調子が上がり、渡辺さんとのデュエットなどすごく聞かせてくれる。のんちゃん、上手じゃない、と安心する私は、ほとんど親戚のおばちゃんだ。

 パンフレットに、のんさんと渡辺さんと小日向さんの鼎談が載っていた。そこで渡辺さんがのんさんの魅力をこう語っていた。「のんちゃんってなんだか面白いじゃない。純粋だけど、ちょっと狂気がある」。ふむふむ、なるほど。さらに渡辺さん、「そういう存在はなかなかいないから、すごく褒めたの。うちの芝居にもあうと思った」と言っていた。

 うんと年下の人を「友人」と言い、良いところを口に出して褒める。たぶん、渡辺さんはのんさんを演劇界の「同僚」と思っているのだろう。演劇に愛と誇りとポリシーを持つ渡辺さんに選ばれるのんさん、やっぱりすごい。

 のんさんが女の子らしい衣装で出てくるのは、舞台の最終盤の一瞬だけ。アイボリーのワンピースで、とても素敵だった。その衣装はのんさんの手作りだそうだ。アンコールで出演者が並んだ時に渡辺さんがそう明かした。「キョンキョンからミシンをプレゼントしてもらったのよね」と、渡辺さんはのんさんに語りかけていた。

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ゴーゴー、ラサール&ぴっかり