完全復活は? のん (c)朝日新聞社
完全復活は? のん (c)朝日新聞社

 のんさんの初舞台「私の恋人」を、本多劇場で観た。全国7カ所で上演後の東京公演の6日目。追加公演も発表された。終演後、劇場を出て階段を降りていると、すぐ前でひとりの男性が隣の女性にこう言っていた。

【写真】まだ幼さが残る2016年の「のん」

「あー、とにかくのんちゃんに会えてよかった。観たんじゃないよ、会えたんだよ」

 若くはない会社員風の男性がしみじみとつぶやいたその言葉、私も同じ気持ちだった。所属事務所と「大人の事情」で、能年玲奈からのんになった。音楽、絵画、そして声優としての活躍は承知している。だけど、やはり演じてほしい。演じるのんさんに会いたい。

 そういう気持ちの人が大勢いるからだろう。劇場全体が「のんちゃん、がんばれ」に包まれていた。

 作・演出は渡辺えりさん。能年さん時代に出演した朝ドラ「あまちゃん」(2013年)で共演した人。パンフレットの巻頭、渡辺さんの挨拶にこうあった。

「のんちゃんは8年前から一緒に何か作ろうと話し続けてきた気の合う友人である」

 いいなあ、渡辺さん。「劇団3◯◯」を1978年に立ち上げ、2018年から劇作家協会会長を務める演劇界の重鎮。現在64歳。のんさんは26歳。38歳年下の女性を「気の合う友人」と言う人、大好きだ。

 CM以外テレビでのんさんは見られないのが基本。だから8月31日、NHKの「おはよう日本」でのんさんのインタビューが放送されたことは、前日からネットなどで大変話題になっていたから、私も見た。

 のんさんが「あまちゃん」の舞台でもある岩手県久慈市に通っていることが紹介された。「初めてのんちゃんと呼んでくれたのが、久慈の皆さんだった」とのんさん。能年ちゃんからのんちゃんになったこと、それはそれは大変だったんだなーとしみじみ。

 「私の恋人」での初舞台挑戦も紹介され、渡辺さんのVTRも映った。のんさんをオファーしたのは「気持ちに嘘がない」からだと語っていた。「嘘があると、舞台は全部見えてしまいますから」と。渡辺さんの芝居への愛と誇りが伝わってきて、のんちゃんは渡辺さんに出会えてよかったなあ、とまたしみじみ。

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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