それもそのはずです。その化粧品には実際に最強クラスのステロイドが含まれていたからです。ステロイドの副作用だけを強調し、ステロイド外用剤の恐怖を植えつけて実際はステロイド入りの化粧品(漢方や自家製のクリームなどの場合もあります)を販売する事件は、残念ながら数年おきに繰り返されます。

 ステロイド外用剤はお薬です。使い方によっては強力な効果も出ますし、副作用も起きます。例えば、私たち皮膚科医がアトピーの方にステロイド外用剤を処方する場合、体の部位によってステロイドの強さを変えます。

 それは、皮膚の厚みによって薬の吸収度合いが変わるため、薄い皮膚に強いステロイドを塗ると副作用のリスクが上がるからです。腕の内側に比べ、頬では薬の吸収が13倍と言われています。そのため、弱めのステロイド外用剤を使うことが多いです。同じように、赤ちゃんは皮膚が薄いため、弱いステロイドで十分な効果を発揮します。

 実際、顔のような薄い皮膚に強めのステロイドを長期間漫然と外用し続けると、毛細血管が浮き出て、あから顔になる「酒さ様皮膚炎」を引き起こします。ですので、ステロイド外用剤は医師の管理下で使用することが必要なのです。

 さて、冒頭の事件では「この化粧品はおかしい」と感じた全国の皮膚科医と声をあげた患者さんの力によって被害拡大を防げました。

 通報を受けた消費者庁や東京都が化粧品の成分を調べ、ステロイド外用剤が含まれていることを確認しました。その後の詳しい検査の結果、中国で販売されている廉価な市販のステロイド外用剤を詰め替えただけの商品ということがわかっています。

「ステロイドが入っていない」とわざわざ宣伝するのは、販売する側の思惑として「ステロイドをなんとなく怖いと思っている人」の心理を利用したいからでしょう。

 化粧品はあくまでも化粧品です。化粧品で皮膚病を治そうとは決して考えず、きちんと病院に行くことが大事です。

 疑わしい化粧品やクリームなどは、商品を持参のうえ皮膚科医に相談するのがよいと思います。また、厚生労働省や消費者庁、各自治体にもあわせて相談すると、今後の健康被害を防げます。

 口コミや上手な宣伝に惑わされず、成分がよくわからないものは買わない、そして皮膚に塗らないことが大事です。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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