大塚:自分も、書くことで自分の気持ちを落ち着けているような気がします。

夏川:書いているときはどんな感じなの?

大塚:2パターンあって、知識として整理して伝えたいことと、医者として伝えたいこと。知識は、ほくろの見分け方とか、知っているだけで役に立つかなと。専門領域までいくといくらでも(コラムの)ネタはあるじゃないですか。新しい論文は次々と世界中で発表されるし。

夏川書籍の中で、大塚先生という「個」を感じる部分は、民間療法のリスクなど、危険な部分にやんわりと触れるところ。全否定ではなく。われわれはプロフェッショナルとして信じているものを提供していくよ、と。世の中の流れ的にどうしても医療不信、医師不信というものがあって、病院に行って、合わなかったから民間療法にと患者さんがたどりついてしまう。エビデンス(科学的根拠)がない、論文も出てこない民間療法に対して、やんわり警鐘を鳴らしている部分には、大塚先生の怒りが表れています。

大塚:おっしゃるとおり、怒りがあります。それはどちらかというと、同業者に対する怒りが強い。医者の世界で生きているので、批判するのは難しいんですが。

 患者さんが民間療法に行くきっかけは、病院で嫌な思いをしたことが引き金になっているんじゃないかと思っていて。たとえば僕はアトピー性皮膚炎が専門だけど、1980年代、テレビ番組がステロイドバッシングをやったんです。そのあと、患者さんがステロイドを使わないで民間療法に行くというのが一時すごくあって。それを知っている医師たちは、「マスコミが悪い」というんです。もちろんテレビや新聞で報道されたことをうのみにして信じてしまう人は多い。でもそういう人たちも大多数は病院に来て、「こんなの見たんですけど本当ですか?」と聞いてくれる。その時に、僕らの対応ってけっこう大事なんです。

夏川:あっさり切り捨てるのは危険なんだろうね、きっと。

大塚:そこで患者さんにちゃんと寄り添うべきだと思う。アトピー性皮膚炎に関しては慢性の経過をたどるので、なかなかよくならない。その患者に対して、「アトピー性皮膚炎は慢性なので治りません」って断言する医者がいたとする。そうなると、患者さんからすると、「この医者は治す気がない」、あるいは「治す腕がない」と映る可能性がある。そうなった時に、この病院をやめて治せる医者に行こうということで民間療法に行ってしまうのは、ある意味、医者の責任だと思う。そういう背景があって民間療法に行く人が、どうにもならなかったから標準治療に戻りますといった時に、そこで患者さんを医者が叱るとか怒るというのは間違っていると思っているんです。

 そういう医者へ対しての怒りがある。道に迷ったのは、僕ら医療従事者にも、ある程度原因があって、地道に情報を発信することで助かる命もあると思っています。間違った情報で健康被害を受ける人もいる。ちゃんとエビデンスにもとづく情報を発信して、それを知って、選択を間違える人が少なくなければ、不幸にならない人が増える。きっと『神様のカルテ』を読んでもらうこと、夏川さんが読者に伝えたいこともそこにあるのではないかと。

夏川:なんとか現場の医者にもできることはあるんじゃないかと思わされますね。一方で、わかりやすい情報が患者さんに受け入れやすいということもあります。人間に対する医療はそんな単純に断定できるものではなく、複雑で難しい。難しいし、プロフェッショナルな分野っていうことが忘れられかけている。人の命は難しいし、わかりにくいものなんだっていうのを伝えるしかないかなあ。

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「医療の情報を、楽しくわかりやすく伝えていきたい」(大塚)