被験者は運動したりしなかったり、別なものを食べたり食べなかったり、ストレスがたまったり、たまらなかったり、いろいろなのだ。個々の体質の違いもあるだろう。ある人の健康には有益でも、他の人には有害なのかもしれない。

■ホワイト、ブラック、グレーゾーン

 もちろん、研究者もそのへんの難しさは承知の上で、いろいろなテクニックを使ってそういった要素(交絡因子)の影響を取り除こうとする。それでも全ての交絡因子をきちんと取り除くのは簡単ではない。

 現段階で言えるのは、砂糖入りのジュースの飲み過ぎは健康によくなさそうだということ。果物を食べるのは健康によさそうだということだ。で、果物を搾って作った100%ジュースが健康によいか悪いかは「はっきりしない」グレーゾーンにある。

 おそらくは今後研究が進んでくればもっとはっきりしたデータ、エビデンス(科学的根拠)が見つかることだろう。ぼくらは現時点で知っている事実で議論しているが、「ぼくらがまだ知らない将来出て来るであろう研究」が登場するであろうことも勘定に入れる必要がある。

 では、将来見つかるであろう新たなエビデンス(知見)も勘定に入れ、健康に良い生活を送り、リスクをヘッジするにはどうしたらよいのだろうか。ぼくが思うに、その最適解は「極端に走らない」ということだ。

 たとえば、どのくらい糖分を取るのが適切なのか。それが週1回ならいいのか、月1回なら許容範囲なのか、ティースプーン1杯なのか、3倍なのか。ぼくにはわからない。でも、現在わかっているのは、毎日ガブガブ砂糖入りドリンクを飲むのはよくないってことだ。そういう「極端」に走らないことが大事なのだ。要するに「程度の問題」ということだ。

■精神衛生上不健全ならば、その人は不健康

 いくら糖質がよくないといっても、年に数回行くだけの寿司屋で寿司ネタの下にあるご飯を回避する意味はない。毎日食べているのではないのだから、その程度の糖質は許容すべきだ。また、その程度の許容ができないのは、むしろ精神衛生上不健全であり、そういう意味では、その人は不健康であるといってもよい。

 果物も同様だ。いくら果物が体にいいからといって、果物だけダイエットはおそらく体によくないだろう。リンゴダイエットとかバナナダイエットのように、1つ食品に頼り過ぎな食事は危険だと思う。

 危険度の違いは、個々の体質にもよる。例えば高齢者には腎臓の機能が低下している人が少なくない。果物にはカリウムが豊富に含まれているが、腎臓の悪い人がカリウムを取りすぎると高カリウム血症という病気になることがある。

 ここで注意が必要なのは、ある程度のカリウムは人間の生存に必須だということ。しかし、体内のカリウムが多すぎると、人間は死んでしまうということだ。

 ここでも、ほどほどが大切なのだ。程度問題なのだ。

著者プロフィールを見る
岩田健太郎

岩田健太郎

岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著にもやしもんと感染症屋の気になる菌辞典など

岩田健太郎の記事一覧はこちら