個人の行動について指摘をする以上ある程度の負担は伴いますが、重要なことは指摘が個人への攻撃となってしまわないことだと思います。周囲の人から理解を得難い行動であったとしても、本人にとってはそれが普通であるかもしれません。周囲にとって負担になっている事実や望ましい対応策を共有することで、本人が状況を理解・学習し次第に適切な行動を取れるようになることもあります。一度では難しいかもしれませんが、具体的な事例を取り上げながら、建設的に繰り返し話し合うことでお互いの理解も進んでいきます。そのなかで、本人が生活しにくさや自分の苦手なものに疑問を感じるようなことがあれば、受診してみることを可能性の一つとして提案することもよいかもしれません。

 アスペルガー症候群の治療では、他職種のスタッフとも連携しながら自分の特徴への理解を促し、自分が直面している状況において望ましい行動を取れるよう支援していくことが中心になります。時間がかかることもありますが、治療を続けることで今まで苦手としていた場面でもうまく対応できるようになることも期待されます。

 治療中にお薬が使われる場合もありますが、残念ながらお薬による根本的な治療法は確立されていません。衝動性などが特に目立ち、普段の生活やお薬以外の治療を進めるうえで支障となる場合に症状を和らげる目的で用いられたり、アスペルガー症候群の障害が原因で引き起こされる気分の落ち込みなど、二次的な精神症状を改善することを目的に用いられることが一般的かと思います。

 確かに、アスペルガー症候群の患者さんには苦手な部分もありますが、分野によって卓越した能力を発揮する人がいることも事実です。大切なことは、苦手な部分を理解して、得意な能力を発揮する方法や環境を準備することだと思います。いま思い起こしますと、私も実際に世界でも上位1%のIQ(知能指数)を持っている学生やプログラミングの専門知識を持っているアスペルガー症候群の人の診療に当たったことがあります。Aさんのご相談を受け、いずれの症例も職場での人間関係がきっかけで受診されていたことを思い出しました。現在は、お二人とも通院治療を経てご自身のいた場所へ戻り活躍されています。

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「誰にも相談できなかった」という患者さんも