上宮高校時代の元木大介 (c)朝日新聞社
上宮高校時代の元木大介 (c)朝日新聞社

 23日に第91回選抜高等学校野球大会が幕を開け、連日熱戦が繰り広げられているが、懐かしい高校野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「平成甲子園センバツ高校野球B級ニュース事件簿」(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、過去の選抜高等学校野球大会で起こった“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「“気づかなかった”が招いた珍事編」だ。

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 隠し球と代打通告をめぐるアクシデントが試合の流れを変えてしまったのが、1988年の3回戦、上宮vs高知商。

 大会屈指の右腕・岡幸俊(元ヤクルト)を擁し、「学校創立90年を優勝で飾ろう」を合言葉に勝ち進んできた高知商は2対2の8回1死一、二塁、岡林哲の右翼線二塁打で、3対2と勝ち越し。「まさか!」の事態が起きたのは、なおも1死二、三塁と押せ押せムードのさなかだった。

 岡林がリードを取ろうと二塁ベースを離れた瞬間、ショートの元木大介(元巨人)が近づいてきてタッチした。二塁塁審の「アウト!」のコールに、「一瞬、何だかわからなかった」という岡林は、元木がボールを持っているのを見て、初めて隠し球に気づいた。

 その元木は「相手が喜んで、ボールをまるで見ていなかったので、やってみようと思いました」と、してやったりの表情。「勝ち越されてもあきらめたらいかん」という勝利への執念が、追加点を阻み、流れを上宮に引き寄せる。

 とはいえ、この時点では、1点リードの高知商が依然有利である。ところが、9回表、岡が先頭の種田仁(元中日-横浜-西武)を三ゴロに打ち取り、勝利まであと2人となった直後、もうひとつの珍事が起きる。

 1死から代打・長田博昭が「(背番号)9番です」と球審に告げて打席に入った際に、スタンドの大歓声にかき消されて聞こえなかったことが発端だった。代打が認められたと思った長田は、岡の初球を左前安打する。

 これを見た高知商ベンチは「(2番)打者は左なのに、右で打った」と異変に気づき、大会本部も「代打の通告があったか」と球審に問い合わせる。もちろん球審は気づいていない。アマチュアには通告義務違反の罰則はないが、事後通告の処理などのため、試合は約4分中断。これが1回戦後に38度の発熱で点滴を受け、「6回ごろから腕に力が入らなかった」という岡の投球に大きな影響を与える。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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「審判が何も言わないし…」