今日の舞台に立てたということは、去年の5月以降、ゲームに出られない状況になって。その後にチームと一緒に練習を続けてきたわけですけど、それを最後まで成し遂げられなければ、今日のこの日はなかったと思うんですよね。今まで残してきた記録はいずれ誰か抜いていくとは思うんですけど、去年の5月からシーズン最後の日まで、あの日々はひょっとしたら誰にもできないことかもしれない。ささやかな誇りを生んだ日々であったと思うんですよね。去年の話だから近いということもあるんですけど、どの記録よりも自分の中では、ほんの少しだけ誇りを持てたことかなと思います。

──ファンの存在はイチロー選手にとってどうだったか。

 ゲーム中にあんなことが起こるとはとても想像していなかったですけど、それが実際に起きて、19年目のシーズンをアメリカで迎えていたんですけど、日本のファンの方の熱量というのはふだん感じることは難しいんですよね。久しぶりに東京ドームに来て、ゲームは基本的に静かに進んでいくんですけど、なんとなく印象として日本人は表現するのが苦手というか。そんな印象があったんですけど、それが完全に覆りましたね。内側にある熱い思いが確実にあるということ、それを表現したという時のその迫力というものが、今まで想像できなかったことです。

 ですから、これは最も特別な瞬間になりますけど、ある時までは自分のためにプレーすることがチームのためになるし、見てくれる人も喜んでくれるかなと思っていたんですけど、ニューヨークに行った後ぐらいからですかね。人に喜んでもらえることが一番の喜びに変わってきた。その点で、ファンの方の存在なしには、自分のエネルギーはまったく生まれないと思います。え、おかしなこと言ってます、僕? 大丈夫ですか?(会場笑)

──イチロー選手が貫いたものとは。

 野球のことを愛したことだと思います。これは変わることはなかったですね。おかしなこと言ってます、僕? 大丈夫?(会場笑)

次のページ
野球が楽しかったのはプロ3年目まで