ただ、いつまでもこの2人に頼り続けるわけにはいかない。年齢的にも決して先は長くない。ところが、この「ポスト内川」「ポスト松田」の存在を探すとなると、少しばかりチームの先行きに“おぼろげな不安”がもたげてくる。「右打者」の「内野手」というキーワードでくくれば、若手が育っていないという現実が見えてくるのだ。

 この日の紅白戦に出場した内野手登録の選手は、内川と松田を含め11人。うち、20代の右打者となると、27歳の今宮健太と西田哲朗、24歳の美間優槻の3人だ。今宮は押しも押されもせぬ遊撃のレギュラー。昨季楽天から移籍の西田は、昨季も内野の全ポジションを守ったマルチプレーヤーだが、メーンは遊撃。昨年7月に広島からトレードでやって来た美間も、移籍後は1軍出場がなかった。

 美間は6回、レフトポール直撃の本塁打を放ち、そのパンチ力を見せつけた。柳田と上林の欠場で2軍から招集されたチャンスを生かしての大アピールだ。ただ、ならば、シーズンに入って、内川や松田の代役としてスタメンを張れるかとなると、まだその実力と安定感には疑問符がつく。

 西田も昨季終盤に故障離脱した今宮の穴を埋めるなど、相手が左投手の場合のスタメン、終盤の守備固めや代打では重宝できるが、レギュラー格にはあと一歩のところだろう。昨季の場合、内川と松田に代わって一塁と三塁を務めたのはグラシアルだが、キューバ出身の助っ人も33歳。つまり、内川&松田に続く中堅層にタレントを欠き、さらに近い将来の「右の大砲候補」が伸び悩んでいるのだ。

 2015年ドラフト5位の黒瀬健太は、初芝橋本高時代に、高校通算97本塁打を誇った右の三塁手。しかし3年間で1軍出場のないまま、今季からは育成契約。同4位の茶谷健太は2年目の2017年に1軍で初打席初安打の鮮烈デビュー。186センチの恵まれた体格で期待されながら、昨季は1軍昇格できず、ソフトバンクの育成契約への切り替えを断るとロッテへ移籍。2014年ドラフト3位の古沢勝吾も、九州国際大付高時代に俊足巧打で名を馳せた右の内野手だが、こちらも4年間で1軍昇格はできず、今季から育成契約。黒瀬も古沢も、この日の紅白戦には招集されていない。3軍制、育成に定評があると言われるソフトバンクだが、唯一の泣き所とも言えるのが、20代前半の「次世代の右打者」を育て切れていないことなのだ。

 今季は、投手陣に目を向ければ、股関節の手術から復活した守護神サファテ、左肩痛から順調に回復している和田毅らベテラン陣の復活も見込まれ、投手陣の充実ぶりは明らか。150キロ台後半の速球が魅力のドラフト1位右腕・甲斐野央(東洋大)ですら、1軍に入ってこられるか分からないような豊富な陣容を誇っている。

 対照的に、野手陣はレギュラーと控え組、さらにファームを含めた次世代との“溝”が深いとも言えるのだ。内川や松田が昨季のように不調、あるいは故障で戦線離脱した場合に、野手の顔ぶれが途端に薄くなってしまう。特に右打者のタレント不足は顕著だ。

 一昨年までスカウト部長を務め、昨年から2軍監督に就任した小川一夫2軍監督も「そこのところやね」と、内川と松田の後釜が育て切れていないという“弱点”を認める。

 一昨年のドラフト会議では、早実・清宮幸太郎(日本ハム)と履正社・安田尚憲(ロッテ)、昨年も報徳学園・小園海斗(広島)と競合覚悟で高校生野手の1位指名に乗り出したが、抽選で敗れている。3人はいずれも左打者だが、将来の中軸を担える内野手の逸材であることは間違いなく、3年連続の“抽選敗退”がソフトバンクの補強戦略を狂わせている不運な面があるのも確かだ。

 この現状を打破するべく、今まさに「将来の右の中軸候補」として球団が大きな期待をかけているのが、昨年度ドラフト3位入団の増田珠(横浜高)と、今年のドラフト3位入団の野村大樹(早実)だ。

「この2人を育てていかないと」と小川2軍監督は強調する。プロ入り後に内野手に転向した増田は、昨季は3軍で三塁手としての経験を積んだ。日本ハム・清宮の1年後輩で早実でクリーンアップを組んだ野村は、すでにファームの紅白戦でもヒットを放つなど大物の片鱗を見せており「野村は体が強くてしっかりと練習ができる。精神力も強い、性格も明るい。うまくなる要素が満載」と小川2軍監督は言い、増田に関しても「筋力がついて、試合でも一発で仕留める力がついてきた」と成長ぶりを認める。

次のページ
小川氏「内川と松田の2人が頑張っている間に1年でも早く…」