線路わきに1列に並んで次のSLを撮影中の皆さん。三脚を使用する人はVTR以外ほとんどいないので専有面積は靴裏の大きさのみ。人のカメラの前に飛び出る人もいなければ、罵声が飛び交うこともない(撮影/櫻井寛)
線路わきに1列に並んで次のSLを撮影中の皆さん。三脚を使用する人はVTR以外ほとんどいないので専有面積は靴裏の大きさのみ。人のカメラの前に飛び出る人もいなければ、罵声が飛び交うこともない(撮影/櫻井寛)

 鉄道写真の楽しみ方には各国で違いがある。決められたルールも撮る側の守るべきマナーも、それぞれである。「アサヒカメラ」2月号では、世界95カ国の鉄道を撮影してきた櫻井寛さんに英国、スイス、タイの鉄道撮影事情を解説してもらった。ここではスイスでの撮影事情を紹介する。

【写真家・櫻井寛が撮影したスイスやイギリス、タイでの美しい写真(計14枚)はこちら】

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 世界一、鉄道写真の撮りやすい国はスイスであろう。

 理由は平和な国であり、観光立国であり、アルプスに代表される世界屈指の美しさを誇る国土であることを誰よりもスイス人が自覚しているからだ。なので、スイス人はきれい好きで、列車もまたヨーロッパのどの国よりも美しく清掃されている。さらに、およそ10の市町村では排気ガスを出すクルマの乗り入れを禁じている。おかげで空気がクリーンに保たれるばかりか、誰しもがそのエリアでは鉄道を利用するので鉄道会社も潤うのである。残念ながら日本に自動車の乗り入れを禁じている市町村は一つもない。

■鉄道世界遺産の国

 それはさておき、2018年には、ブロネイ・シャンビー鉄道の開業50周年祭と、レーティッシュ鉄道の世界遺産登録10周年記念イベントが行われた。日本でもイベント列車は運行されているが、やり方が、ずいぶん違うので紹介したい。

 まず、ブロネイ・シャンビー鉄道だが、「メガ・スティーム・フェスティバル」と題し、蒸気機関車10両によって、多数のSL列車が運転されたのだが、最も驚いたことは、SL列車の前に、カメラマンのためのEL(電気機関車)列車が運転された。途中3カ所ほど、撮影に適した場所で一時停車し、自由に下車できるのだ。EL列車が通り過ぎると、線路内を歩いて好みの撮影ポイントへ。途中に鉄橋やトンネルもあったが、「列車が来ない時間なら通行可」と、いずれも通行OKであった。

■マナーの良さに驚き「大人の国」

 日本では、1日1本のローカル線でも、線路内通行は許されていないだけに、安全基準の差を感じさせられた。

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マナーの良さに驚き