だからと言って、彼の行為が正当化されるわけではないが、このことは一応頭に入れておいた方が良いだろう。

 そう考えると、不思議なことに気づく。それは、日本でもフランスでも十分な報酬をもらえないと感じたゴーン氏が、日本では不正に手を染めたのに、何故フランスのルノーではそれをしなかったのかということだ。

 これからフランスでも問題が出てくる可能性はないとは言えないが、少なくとも、フランスのルメール経済・財務相は、「事件発覚後に調べさせたが、何も出てこなかった」と述べているので、100億円近い報酬の過少開示というような問題が出てくる可能性は低いだろう。

◆悪者はゴーンと日産で、ルノーは悪くない

 こうした日産とルノーの違いを大きく報じるメディアがないので、日本の多くの国民は、ゴーン氏が悪者で、日産は被害者だと信じているかもしれない。さらに、ゴーン氏はフランス政府とルノーの手先だというイメージが作られつつある。

 しかし、本来は、悪者はゴーン氏と日産であって、少なくともルノーは何も悪いことはしていないということは、しっかり認識しておかなければならない。

 ゴーン氏がルノーでも同じことを試みたが、途中で阻止されたのか、ゴーン氏が不正など無理だと考えるほど、しっかりしたガバナンスの仕組みがあったのか。いずれにしても、日産では不正ができてルノーではできなかったということは、日産にとっては、隠しておきたい「不都合な真実」に違いない。日産の杜撰なガバナンスがゴーン氏の不正を生んだと言われかねないからだ。

 そこで、とにかく「ゴーンが悪い!」というキャンペーンを行い、「彼はルノーとフランス政府の手先となって、不当に日産を搾取し、さらに日産を完全支配しようと企んだ」というイメージを一気に拡散している。

 しかし、ルノーでは日産と違って報酬過少開示などは行われていないし、43%超の株主として、日産の経営に口出しすることは、ルノーにとっての当然の権利だということを考えれば、ルノーが立派な会社かどうかは別にして、少なくとも、「悪者」だというには無理がある。

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日産役員がどこまで不正に加担したのか?