そこで、政府、特に菅氏にとっては、極悪人ゴーンがフランス政府やルノーの手先であるというストーリーが流布すれば、日本政府介入の口実として使える。「ホワイトナイト」日本政府が登場して、悪漢ゴーンとその黒幕ルノー・フランス政府連合を退治するという勧善懲悪物語だ。


今マスコミは、政府と日産の注文通りに動いているように見える。

 客観的に考えれば、当面は、日産・ルノー・三菱自の3社連合は維持しなければ、市場の厳しい競争から脱落することになるというのが、多くの専門家の共通した意見だ。

 しかし、西川社長らは、自分たちを正当化するために、ルノーまで悪者にして、独立を果たしたいと考えているように見える。そこに、菅氏が、俺の出番とばかりに政府の金を使って介入すれば、強力な後押しとなってしまう。菅氏としては、日産への利権確保にもつながるから、誘惑は大きいだろう。

 日産が、政府介入によって、誤った判断をする可能性は排除できない。

 自動車業界の所管は経済産業省だ。日産の取締役は9人で、日本人は5人。うち社外取締役2人だが、そのうち一人が元経産省次官級OBの豊田正和氏だ。その他にも、理事クラスで一人天下りがいる。大事な企業をルノーに渡すことは許されないという強い思いを経産官僚たちは持っているだろう。さらに、この機会に、フランス政府との交渉で恩を売り、何とか日産との関係で利権拡大を図りたいと考えるはずだ。利権とは天下り。例えば、常務クラスなどのもう少し良いポストを獲得するというようなことが考えられる。

 しかし、経産省の影響力が強まるのは良いこととは言えない。彼らは、トヨタの言いなりになって、電気自動車よりも水素自動車路線にこだわり続け、日本がEV競争で完全に出遅れる原因を作ったA級戦犯だ。テレビ、携帯電話、半導体、液晶とことごとく世界の競争に負けた電機産業に介入し続けていたのも経産省。経産省が手を出してうまく行ったケースは最近ほとんどない。

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日産はフランスの会社ではないか?