元々ルノーに助けてもらった日産だが、今は、ルノーよりも日産の方が販売台数も売り上げも1.5倍。しかし、資本関係では、ルノーが日産の株を4割以上持ち議決権を保有して、事実上の支配権を確保している。一方の日産はルノー株の約15%しか保有せず、しかも議決権がない。実力と支配権の「ねじれ現象」だ。

 その両者の不安定な「アライアンス」(提携)構造の上の重石となっていたゴーン氏が不在となれば、両者の関係はどうなるのか。こうした不安感は、日産よりもルノーの方が大きく、ルノーの15%の株を持ち筆頭株主であるフランス政府も、国内の雇用を守るために、何が何でも日産の離反を止めたいと考えている。

 これまで、日産とルノーの統合を目指すフランス政府・ルノー側と日産の間では、複雑な駆け引きが行われてきたが、とりあえずは、ゴーン氏のルノーCEOの任期延長の代わりに、ゴーン氏が、日産とルノーの連携関係を後戻りしないように強化することを約束して、フランス政府の直接介入は避けるということで折り合った経緯がある。

 ゴーン氏の逮捕劇が、日産内部でのクーデターだという見方が出るのは、こうした背景を理解すれば、不自然ではない。

 今回の件で、フランス政府は、日産が、ルノーとの関係解消に動くのではないかと疑心暗鬼に陥っている。そうなると、フランス政府は、ルノーと日産の統合に持ち込もうとする可能性もないとは言えない。

 そこで、日本政府はどう出るのかが、既に話題になっている。

 ここで、一つ気になることがある。

 日産の専務が菅義偉官房長官を訪問して事態について報告していたが、日産本社は菅氏のおひざ元の横浜市。菅氏にとって、日産は自分の陣地の会社だ。面子にかけてもルノーには絶対に渡したくないと考えているだろう。さらに、日産独立へと導けば、安倍政権を支持する右翼層を含め国民への格好のアピールにもなる。

 日産の独立性を高めるには、いくつかの選択肢があるが、いずれにしても巨額の資金が必要だ。政府が支援することも考えられるが、それを世論が支持してくれるかどうかはわからない。

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ゴーン悪人説は経産省にとっても好都合