今回は、後ろに下がっていてもらいたいのだが、おそらく、そうはいかないだろう。彼らの血が騒ぐのは誰にも止められないからだ。

 実は、冷静に考えると、日産は、一度は事実上破たんした会社だ。当時、私は直接担当したわけではないが、ルノーが救世主として現れ、ゴーン氏が辣腕を振るう間、経産省は指をくわえて見ているだけだった記憶がある。経産省が、日産は「終わった会社」だと見放した結果、フランスの会社に売り飛ばされたと言っても良いだろう。日本のどの会社も日産を助けることはなかった。

 ところが、ゴーン氏のおかげでV字回復を遂げたとたん、あたかも、日産は、日本の力で蘇ったかのような錯覚に陥っているのが、経産省であり、安倍政権ということだ。そして、マスコミも、過去の歴史など忘れたかのように、日産がルノーの支配下に入ったら大変だというような報道をしている。

 もし、本当に日産がそんなに立派な会社であるなら、日本のどこかの企業あるいはファンドが日産に出資して、日産の独立を助けたらどうか。きっと将来的に株価も上がり、投資も回収できるだろう。逆にそういうことができないのなら、民間企業は、日産はそんなに立派な会社じゃないと判断しているということになる。

 これから、政府系ファンドや政投銀(日本政府投資銀行)などを使った支援策などが検討されるかもしれないが、そうなることは、民間から見て、日産には魅力がないという証明だということをしっかり認識しておくべきだ。

 日産について、いろいろ書いたが、最後にもう一度強調しておきたい――。
「極悪人のゴーンはルノーとフランス政府の手先」という説を流す人々の言うことを鵜呑みにしてはいけない。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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